2011年10月14日
サマリー
国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)は、9月7日、責任投資原則(Principles for Responsible Investment、以下PRI)の現状を伝える年報(※1)、およびPRI署名機関による普及進展への取り組みに関する詳報(※2)を公表した。PRI署名機関は、2011年7月時点で前年比136増加して920となり、着実に普及している。署名機関の所在国は49に及び、世界的な取り組みとなっていることが改めて明らかになった。
今回の調査で大きな進展を見せたのは、欧米以外の国々における責任投資への取り組みの深化である。調査に答えた投資家のうち、「責任投資に関する投資方針」を策定していると回答したのは、ラテンアメリカで前年比15パーセントポイント増の96%となり、アジアでも81%から91%に増加している。全体の平均が94%であるから、欧米との差異はほとんどなくなっている。投資方針の策定は、責任投資を具体化するプロセスの第一歩だ。投資方針を策定する投資家の比率が増加していることは、責任投資への取り組みが欧米以外の国でも深まりを見せていることを意味するだろう。
PRIでは透明性を高めるために、投資家サイドから責任投資への取り組みについて情報発信するように促している。アジア圏は、こうした情報発信に取り組んでいる比率が16%に留まっており、欧州の47%、北米の38%に比べ今のところ低い水準にある。PRIを普及促進するため同業者や顧客への働きかけという点も課題となる。そのような行動に取り組んでいるという回答は、全体平均で73%であったがアジアでは58%と低い。しかし、前年の35%からは大幅な増加であり、今後の進展が期待される。
PRIは、投資対象の選定において、環境・社会・ガバナンス(ESG)の要因を判断プロセスに組み入れることを求めている。しかし、次項(「GRIが次世代ガイドラインG4開発のための調査開始」)で記したように、ESGに関する情報は、今のところ統一的な開示ルールが定められていない。そのため、投資家がESG投資を行う場合に依拠する情報にも様々なものがある。今回の調査では、財務情報と非財務情報を統合した統合財務報告書(Integrated financial reports)を活用しているとの回答が71%に達した。しかし、このような制度化された開示情報ではなく、独自の調査(Tailored survey)を行うという回答が、前年の27%から34%に急増しており、投資家それぞれの問題意識に沿った個別的な情報収集も盛んになっているようである。
PRI署名機関においては、投資判断の基礎となるESG情報を求める声が、どのアセットクラスにおいても強まっている。先進国の上場株式については、72%の投資家が体系的ESG開示を求めていることを見れば、上場企業に対しても統合財務報告書等によって情報開示に取り組むことが期待されている。企業等が資金調達を行う際には、このような投資家の情報ニーズを満たすため、ESGに関して積極的な開示を行うことにより、有利な条件を引き出すこともできるかもしれない。
(※1)「2011 PRI Annual Report」
(※2)「Report on Progress 2011」
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