2016年02月19日
投資家向けに、企業が自社戦略への理解を促すため作る一連のシナリオをコーポレート・ストーリーと呼ぶ。ただし、コーポレート・ストーリーとは何も「物語」である必要はない。より簡便に過去(それまでの行路)と・現在(環境認識や現状の自社のバリュー認識)と・未来(どのようになりたいか)の3ステップが揃えばいい。
だが、その過程はもう少し細分化することも可能だ。ビジネスに確実は無いし、失敗はある。どの時点で何がうまくいかなくなったか、素早く振り返られることは、段階的なコーポレート・ストーリーを立てるもっとも大きな利点だ。
数字がすべての対投資家の世界で一体物語とはなんなのだろうか?といぶかしむ向きもあろう。それに対しては、EPSの上昇、ROEの向上、高い配当は、実現すべき結果であってプロセスではないと指摘しておきたい。プロセスの諸段階には不確実性がつきまとい、それを凌ぐアクションがなんであるかを説明する「物語」を立てられれば、ステークホルダーに対しては、より説得力は増す。
ここでインパクトのある物語の類型としてヒーローズ・ジャーニー(英雄冒険譚)(※1)をフレームワークとして取り上げる。ヒーローズ・ジャーニーは様々な神話や物語の類型化より発見されたものであるが、ほぼそのままコーポレート・ストーリーにも使える。
以下に掲載するのでコーポレート・ストーリー作成の参考にされたい。何らかのミッションを持つのであれば、他の組織でも使うこともできる。
図表 コーポレート・ストーリーのフレームワーク
①Calling(「天啓」=商機) ビジネスチャンスや新しい事業、商品、サービスのアイデアについて書く。 例)自動運転車の登場は我が社のセンサー部品にとってまさに商機である。 |
②Commitment(「決意」) 自社がその事業領域に臨む決意やビジョンについて書く。数値目標は書かない。 例)我が社は、自動運転車用センサー市場において必要不可欠なプレイヤーとなり、同時にもっとも安全に配慮した企業になる。 |
③Threshold(内部資源と外部環境の「境界」) 新しい事業領域、商品・サービスの市場見通しについて書く。 例)自動運転の市場は年率○○%で成長し、その規模は2030年には△△億円になる |
④Guardian(「守護者」=自社の強み) 助けとなる環境、事情、パートナーについて書く。 例)我が社には自動運転車用センサー分野で活用できる有効な特許がある。また機械部品商社A社と提携している |
⑤Demon(「怪物」=解決すべき課題) 克服すべき課題とその対応策について書く。 例)まだ残る技術的な困難や販路開拓などが課題であり、以下のように対応する。 技術的な困難・・・・センサーの精度はさらにアップさせる必要があり、2018年までに感知レベルを満たすよう開発する。 販路開拓・・・・・・A社と共に開発中の試作品を国内外のほぼすべての大手自動車メーカーに展開する。
|
⑥Transformation and Complete the task(会社の「変化」と「タスクの完了」) 課題を克服したあとの自社の姿について書く。数値目標についてはここに記す。 例)我が社は自動車部品用センサー市場の○○%のシェアを掌握する。結果として売上高は△△億円の業界首位の会社になる。 |
⑦Return home(「帰還」) ステークホルダーへの約束を書く。 例)株主には2020年度ROE○○%、配当性向は△△%を実現することで十分な還元を目指す |
(※1)現在映画「スター・ウォーズ~フォースの覚醒」が公開中である。スター・ウォーズの世界観に影響を与えたのはアメリカの神話学者ジョゼフ・キャンベルであるとされる。キャンベルはまた、神話の分析に当たって、ある種の定式化が可能だと主張した一人であった。特に有名なのがいわゆる「ヒーローズ・ジャーニー」である。
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