2012年05月23日
日本では創業百年を超える企業が2万~3万社あり、その大半がファミリービジネスであると言われている。ファミリービジネスとは、創業者や創業者の親族など、いわゆる創業家が中心となって経営されている企業を指し、同族企業とかオーナー系企業と呼ばれることが多い。ファミリービジネスの定義として明確なものはないが一般には、(1)創業家が議決権を保有し、(2)創業家が経営の主要メンバーとして関与している企業と解される。
ファミリービジネスの強みと問題点
ファミリービジネスは独自の強みを持つ一方、逆に問題点も抱えやすい。強みとして、以下の点を挙げることができる。
(1)長期的視点による経営
経営者の在任期間が長く、各種ステークホルダーから長期に亘って厚い信用を築くことができる。このため、短期的な環境の変化や目先の収益に惑わされることなく、長期的視野に基づいた投資が可能であり、堅実で安定した経営を行える。また、従業員の長期雇用を確保し、後継者の育成を早期の段階から計画的に実施することができる。
(2)意思決定の独立性
限定された経営陣により、外部の意見に惑わされることなく、迅速な意思決定が可能である。また、単に伝統を守るだけでなく、環境変化に適応した大胆なイノベーションが可能である。概して経営陣によるコミットメントが強く、会社や人を大事に育てる傾向がある。
(3)伝統と独自の経営理念
世代を超えた企業価値や企業理念が継承され、難しい意思決定の拠り所や企業の永続的発展の原動力となる。製品やサービスのユニークさが差別化の源泉となり、コアコンピタンスやブランドが蓄積される。結果として創業家の求心力が高まり、組織が一つにまとまる(相互信頼の風土が育つ)。
(4)地域との共生
長い歴史の中で、地域との共生関係が確立している(雇用、調達、人的ネットワーク、地域貢献活動、地域文化の保全など)。地域へのコミットメントが強い(地域から逃げられない、地域から親しまれる)ため、地域社会によるガバナンス機能が働く。
一方、以下のような問題点を抱えることもある。
(1)ガバナンス機能の欠如
所有と経営の間に利益相反が生じたり、会社を私物化したりする可能性がある。不透明な経営が行われ、コンプライアンスを軽視する結果、ネガティブ情報を隠ぺいする体質となる。
(2)身内に対する甘さ
身内の役職員に対する甘さが経営の安定や成長の阻害要因となる。これが親族以外の一般社員のモチベーション低下に繋がることもある。
(3)ファミリー間の紛争
会社の所有や経営権をめぐり、親族間で紛争が生じやすい。
スリーサークルモデル
ファミリービジネスを理解するためのフレームワークとして、スリーサークルモデル(注)が有効である。これはファミリービジネスを所有、経営、ファミリーという3つの要素から成る複合体であると考えるものである。3つのサークルで区分された7つ領域に属するステークホルダーの立場の違いによって様々なコンフリクトが生じることになる。
(注)1982年に当時ハーバード・ビジネススクールの教授であったRenato TagiuriとJohn A.Davisによって提唱された概念

ファミリービジネスの変容によって生ずる課題
一般にスリーサークルモデルの3要素は、事業の拡大・発展や時間の経過とともに拡散する(ステークホルダーの数が増える)傾向にある。このためファミリービジネスの発展段階に応じて、3つのサークルで区分される7つの領域において、様々な課題が生じる。特に複数のサークルが重なる部分([4]~[7])においてはファミリービジネス特有の課題が生じやすい。
[4]の領域では、事業内容と保有資産のバランス、自社株・保有不動産の活用、配当計画の策定、情報開示など、[5]の領域では、ファミリーの事業への参画やファミリー社員の雇用、[6]の領域では、ファミリーの持ち分の変更・分配、分散した株式の収集、相続対策など、[7]の領域では、ファミリー間の利害調整、多様なステークホルダーとのコミュニケーションなどの課題が生じる。歴史があり、成熟した、大規模なファミリービジネスでさえも、時の流れによって様々な変容を迫られることになる。
事業承継の局面における課題
ファミリービジネスの課題は、特に事業承継の局面においてクローズアップされる。経営者の交代とともに社内の意思決定システムや各種ステークホルダーとのパワーバランスが微妙に変化する中で、創業者の理念の維持・継承、“第二の創業”を目指した組織変革、経営の後継者育成、ファミリー以外の経営幹部の登用、相続人が保有する株式の取り扱いなど、いずれも重い課題への対応を迫られることになる。

外部の専門家の活用
こうしたファミリービジネスの課題解決のための手段として、外部の専門家を活用する方法がある。外部専門家の活用は以下の観点から有効である。ご参考としていただければ幸いである。
- 社内には無いリソースや専門性を利用できる
- 外部の視点(客観性や公平性)の導入により、“しがらみ”のない変革を実現できる
- 社外の人材との協働により、人材(特に後継者)育成のためのOJTの場を提供できる
※さらに詳しい内容をお知りになりたい方は、当サイトの『大和総研のコンサルティング』をご覧ください。またお問い合わせフォームよりご意見・ご相談をお寄せください。
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