意思決定を科学する~勘や経験に頼らない法~

RSS
  • 間所 健司

トップマネジメントは経営に係わる意思決定を、これまでの経験則や常識、直感などに従って何となく下していることはないだろうか。
2013年7月にパナソニックがM&Aや工場建設など大型投資について意思決定手法を見直すとの記事が掲載された。ディシジョン・マネジメントと呼ばれる意思決定手法を導入するというものである。


リーダーシップは直感的、マネジメントは論理的とはよくいわれている。しかしながら、M&Aや大型の設備投資ではリーダーが直感的に行うものではなく、リスクを見極めた上で、トップマネジメント(トップマネジメント集団)が論理的に意思決定を下すべきで、そこには何らかのリスク評価等がなされる必要がある。
したがって、意思決定にあたって、意思決定者は主要なリスクを特定し、意思決定のプロセスにそれらのリスクを織込み、管理することが必要である。つまり適切な意思決定、リスク管理(リスク・マネジメント)を行うことが、企業の持続的な成長にも貢献することになる。


意思決定におけるリスク・マネジメントで注意しなければならないのは、(1)過去のデータに依存しすぎること、(2)見込まれるリスクを見落とすことである。将来を予測するためには、市場調査、競合分析、バリューチェーン分析などといった戦略立案ツールを利用するのが一般的であるが、不確実性が高ければ高いほど柔軟な状況分析が必要となる。また、自社のリスクを特定するためには社内の各部門がバラバラに考えても間違った認識が導かれる可能性がある。それを避けるために、リスクについての共通言語やツールを持たせることやCRO(最高リスク責任者)が全社のリスクを適切に把握し、重要なリスクに焦点を絞ることが必要である。


意思決定のためのリスク・マネジメントを効果的にするために以下のような取り組みを行うことも考えられる。
(1)意思決定プロセスの工夫
意思決定にあたって、そのプロセスにリスクを織り込んで思考することは重要である。リスク情報に基づいて確率分布を用いたアプローチを意思決定に適用する方法がある。プロジェクトの代替案を検討する際に利用することもできる。オプション評価モデルやシナリオ・プランニングといったリスク評価・分析ツールを利用する方法なども考えられる。


(2)意思決定ガバナンス
CEOの直轄にCROを置き、取締役会が統括する中央集権的で強力なガバナンス体制を敷くことも誤った意思決定を防止する方法の一つである。とはいえガバナンスを強化しても思い込みをすべて排除することはできないが、リスク感度を高めることができ、意思決定を下すには効果的である。


意思決定時にリスクを把握することは、大型の設備投資、各セグメント(事業部門)への予算配分、戦略的M&A、新規事業への参入などを考えるうえでの指針となり得る。また、中期経営計画の策定やそのチェック(検証)にも大いに役立つものとなる。変数を変化させて結果がどのように変化するかを測定する感度分析や、需給のボラティリティ(変動性)を変えた分析など戦略に柔軟性を持たせることが可能となる。


大和総研では、モンテカルロ・シミュレーション等を用いて、企業の意思決定や中期経営計画策定などをサポートしている。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

関連のサービス