学生ベンチャーが世界的な有力企業に成長するために~フェイスブックに続け~

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5月18日、交流サイト(SNS)最大手のフェイスブックが新規株式公開(IPO)を果たした。1兆円超の資金調達を行い、IT分野では史上最大規模のIPOとなった。その後株価は伸び悩んだが、世界的に高い注目度から推測すると、2012年を代表する上場事例になると思われる。


フェイスブックは、マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が仲間の学生とともにハーバード大学在学時に創業した「学生ベンチャー」である。学生寮で新たなサイトを立ち上げたり、仲間同士の友情と事業の発展とのはざ間で悩んだりする様子は、創業前後の経緯として、映画「ソーシャル・ネットワーク」で具体的に描かれている。


米国では、フェイスブックより以前にも、IT分野を中心として、学生ベンチャーが世界的な大企業に成長した事例が多数ある。1980年代までの代表例としては、パソコンの勃興期から活躍したビル・ゲイツ会長が率いるマイクロソフト、パソコンの発展期に成長したマイケル・デルCEOのデルなどが挙げられる。90年代半ば以降、インターネットの普及が進む過程では、検索エンジンから始まり周辺事業も含めたポータルサイトに発展したヤフーやグーグルも、学生ベンチャーから派生し世界市場を先導する企業に成長した事例である。技術革新などで急速に拓けた未知の市場に対して、創造力に長けて馬力もある学生起業家の率いるベンチャー企業が挑んでいき、その市場の発展とともに急成長していくというケースが繰り返されている。

表 日米における学生ベンチャーの代表事例 (出所)各社HPなどから大和総研作成

日本でも、学生ベンチャーがIPOを経て有力企業に進化した事例はある。計測機器の堀場製作所や人材派遣のパソナは、学生ベンチャーから大手企業に成長した先行事例である。インターネット関連の事例では、SNSのミクシィやポータルサイトなどを運営していたライブドアなどがある。ただし、米国と比べると、国内市場では躍進しても、世界的な有力企業にまで成長した事例は少ない。


学生ベンチャーの大きな課題は、事業展開や企業経営に関する経験不足にある。大胆な発想で独創的な戦略を実践することが競争力につながることが多い反面、経験不足から適切な選択が行えないこともある。経験不足だけが失敗の要因でないにしても、悪くすれば、ライブドアのように法令違反につながる可能性すらある。


起業を志す学生にとって、起業家教育を受講することが経験不足を補う有力な対策となる。起業事例のケーススタディや起業経験者の講演などから先例の体験を学ぶ。具体的なビジネスプランを作成し、始めようとする事業の将来性を検証する。「大学・大学院起業家教育推進ネットワーク(※1)」などを通じて、起業家教育の普及が進むことが望まれる。大学内にインキュベーション施設が開設されていれば、そこに入居することも立ち上がり期の事業リスクの軽減につながると考えられる。


また、事業経験が豊富な人材を採用することで、企業の信頼性や安定性を高める効果が期待できる。米国の学生ベンチャーでは、事業の将来性が見込まれてベンチャーキャピタルが出資すると、企業経営に長けた人材が採用されることが多い。ビジネスの基本を備えた番頭役を果たし、学生創業者の経験不足を補完する。


加えて、各分野の専門家から適切なアドバイスやコンサルティングを受けることが企業として健全に成長することを促す。資金調達、組織・人事、マーケティングなどから財務・会計や経営戦略に至るまで、外部機関を有効に活用すれば企業の成長が後押しされる。その際、経営資源の乏しい学生ベンチャーにとって、株式等のエクイティが有力な支援の対価となる。


日本でフェイスブックより半年早く上場した学生ベンチャーがある。村上太一社長が早稲田大学在学時に起業したリブセンスである。史上最年少(25才1ヶ月)の経営者の上場事例として注目を集めた。早大で起業家教育(※2)を受講し、学内のインキュベーション施設(※3)で起業したのち順調に成長を続けてIPOに至った。後に続く学生ベンチャーにとって、参考にすべき貴重な成功事例である。


若手経営者が率いる成長力の高いベンチャー企業が増えない限り、IPO市場および経済全般の本格的な復調は考えにくい。日本でも、学生ベンチャーとして創業されたのち世界市場を先導していくような新興企業が数多く台頭することが望まれる。

(※1)日本の大学・大学院において起業家教育の普及を推進するため設立された大学教員、起業家、外部講師などからなる組織。2009年、大和総研を事務局として、経済産業省が設立。
(※2)大和証券グループ寄付講座「ベンチャー起業家養成基礎講座」(2005年度~)
(※3)早稲田大学インキュベーションセンター

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