確定給付と確定拠出の特徴を持った新たな企業年金制度

企業会計上の取扱いは未定、加入者の資産運用への関わり方に課題

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平成27年9月11日、第16回社会保障審議会企業年金部会(以下、「企業年金部会」)において、厚生労働省が平成28年4月導入予定の新たな企業年金制度案をつくる方針を決定した。新たな企業年金制度案については、『「日本再興戦略」改訂2015』にも示されていたが、その主な内容は、確定給付企業年金制度を改善し、ハイブリッド型の企業年金制度の導入や将来の景気変動を見越したより弾力的な企業年金制度の運営を可能とするものである。


企業年金部会では、新たな企業年金制度案を構成する2つの仕組みの導入が検討された。1つは、事業主が拠出する掛金を安定化させる仕組みの導入である。不況時において事業主が拠出する掛金が増加することのないように、積立不足を予測した掛金(以下、「リスク対応掛金」)を通常の掛金に上乗せして拠出できるようにしたものである。もう1つは、事業主が拠出する掛金を一定に保ちつつ、将来発生する資産運用リスクを事業主と加入者で分担する制度(以下、「リスク分担型DB」(※1))の導入である。リスク分担型DBは、確定給付企業年金と確定拠出年金の両制度の特徴を組み合わせたものであり、事業主はリスク対応掛金を超える掛金の追加拠出は行わず、掛金を一定に保ちつつ、積立状況に応じて給付額を調整する制度である。具体的には、不況によりリスク対応掛金設定時の想定を超えるような積立不足が生じた場合は、加入者や受給権者への給付減額で調整し、好況で運用成績がよく積立余剰が生じた場合は、加入者や受給権者への給付増額で調整する仕組みである。


以下、リスク分担型DBの導入にあたり、今後課題になると思われる事項を整理した。

●会計処理は未確定

現行の退職給付会計基準では、退職給付制度を確定拠出制度と確定給付制度に分類している。確定拠出制度とは、事業主が通常掛金以外に追加掛金の拠出義務を負わない制度と定義され、退職給付債務を認識せずに、損益計算書において掛金を費用処理する。一方、確定給付制度は確定拠出制度以外の退職給付制度と定義され、退職給付債務を認識する必要がある。


リスク分担型DBは、企業会計上、確定拠出制度と確定給付制度のどちらに該当するのであろうか。リスク分担型DBは、あらかじめ給付の算定方法が定められているものの、事業主による掛金の拠出は一定であること、そして積立不足が生じた場合は、加入者及び受給権者への給付額の減額調整で対応すること、このような点を考慮すれば、リスク分担型DBは確定拠出制度に該当すると考えられるのではなかろうか。そうなれば、リスク分担型DBを採用した事業主は、退職給付債務を認識する必要はなくなり、企業会計上のリスク低減につながるであろう。しかし、現行の退職給付会計基準の制定時には、リスク分担型DBは考慮されていなかった。このため確定拠出制度として取り扱われるかは現時点で未定である。リスク分担型DBの導入が予定される平成28年4月までには、企業会計基準委員会(ASBJ)からリスク分担型DBに関する何らかの指針等が公表されると思われるため、その動向に注視しておく必要があろう。

●加入者の資産運用への関わり方について

企業年金部会から公表された資料「確定給付企業年金の弾力的な運営について」には、「リスク分担型DBを実施する場合には、運用の結果が加入者等の給付に反映される可能性があることから、従来のDBとは異なり、加入者がリスク負担に見合う形で運用の意思決定に参画するための仕組みも必要」との記述があり、その対応策として、加入者の代表が参画する委員会を設置することを挙げている。加入者の代表は投資知識を有する者が望ましいと思われるが、加入者の中には今まで投資経験のない者も多数いる。運用の意思決定に関与する以上、投資知識が必要になるため、リスク分担型DBを導入する場合には、既に実施されている確定拠出年金制度と同様の投資教育が必要になるのではないだろうか。


リスク分担型DBは、上記以外にも年金受給権者に関する手続き等、まだ検討中とされている事項があり、その仕組みは、現行の確定給付企業年金制度と比較して相当複雑になることが予想される。


平成27年4月22日付のコンサルティング・インサイトにおいて、確定拠出年金制度の増加要因の1つとして、企業会計上のリスク低減をあげたが、リスク分担型DBの普及についても同様のことがいえるだろう。リスク分担型DBが企業会計上、確定拠出制度と同様に取扱われるのであれば、企業会計上のリスク低減に繋がるため、リスク分担型DBの導入を検討する企業も増えることが予想される。しかしながら、従業員の立場を考慮すれば、リスク分担型DBの導入は慎重に検討すべきであろう。リスク分担型DBは、資産運用の成績により従業員が給付額の調整という運用リスクを負うが、年代、立場によってもリスクに対する考え方は異なる。しかしながら、資産運用には従業員個々の意思が反映されるものではない。また、制度の仕組みも複雑であるため、従業員に対して制度内容を理解させることも重要なポイントになる。企業年金は福利厚生の一環で、従業員の老後の生活資金の一部となることから、退職給付の意義を考え、様々な事項を勘案した上で導入を検討すべきであろう。


(※1)DBとは「Defined benefit pension plan」の略で確定給付企業年金。

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