実務上対応は可能か?基準改正後のイールドカーブを使用した退職給付債務計算
2011年10月12日
・給付見込期間ごとに複数の割引率を設定し、イールドカーブを用いた割引計算を行う。
・給付見込期間ごとの退職給付金額を加味した単一の加重平均割引率(金額加重平均期間による単一の割引率)を設定し、単一の割引率で割引計算を行う。
イールドカーブとは、残存年数の異なる複数の債券の金利を結んでグラフにしたものである。この金利については、社団法人日本年金数理人会、社団法人日本アクチュアリー会が2010年5月にASBJ宛提出した「退職給付に関する会計基準(案)」等に対するコメントによれば、イールドカーブは、「スポットレートを推計することによって得られるイールドカーブを使用する方法が標準的と考えられる。・・・スポットレートの推定をせず、生の市場利回りを用いても良いと誤解されることが考えられる。・・・」~2《結論の背景》①(第94項)~となっている。

イールドカーブの作成には各種の方法があるが、その手順の概要を例示すると以下のとおりとなる。
ここで使用する債券は、日本基準では、長期の国債、政府機関債および優良社債(複数の格付機関よりAA格相当以上を得ているもの)とされている。IAS第19号「従業員給付」では、優良社債を使用することとされているが、厚みのある市場が存在しない場合には、国債を使用することとされている。社債を使用する場合には、残存年数20年を超えるデータが存在しない、格付機関によっては格付値が表示されていない残存年数があるなどデータ個数が少ないという問題点もある。
イールドカーブを使用せずに、単一の加重平均割引率を設定するとした場合でも、その計算結果がイールドカーブを用いた計算結果と近似することが前提となっている。このため、単一の加重平均割引率自体はイールドカーブから読み取ることになり、金額加重平均期間に対応したスポットレートが何らかの形で必要となる。
上記のようにスポットレートによるイールドカーブは一般に公表されている債券等の利回り情報から集計・加工し推計する。現実的に全ての個別企業がこのように対応できるとは考え難い。また、イールドカーブを使用した割引計算を選択した場合、重要性基準の適用、利息費用の算出など実務的にどう取り扱うか明確になっていない点もある。
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