適格退職年金制度は本当になくなるか?

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10月7日、厚生労働省から「平成20年就労条件総合調査」が公表された。この調査は、主要産業における企業の賃金制度、労働時間制度、労働費用、福祉施設・制度、退職給付制度、定年制等について総合的に調査し、わが国の民間企業における労働条件の現状を明らかにすることを目的として実施しているものである。平成20年調査においては、労働時間制度、定年制等および退職給付制度について調査した。


その中で、退職給付制度に関して概観すると、次のような実態が浮き彫りにされてくる。退職年金制度(一時金併用を含む)がある企業の割合は46.9%で、大規模企業が80.7%、小規模企業で37.0%となっており、平成15年の調査時点と比べて、7%近く減少している。支払い準備形態(複数回答)をみると、大規模企業は、確定給付企業年金(キャッシュバランスプランを含む)(DB)45.2%、確定拠出年金(企業型)(DC)35.0%、適格退職年金(適年)34.1%、厚生年金基金(基金)12.7%。他方、小規模企業は、適年45.7%、基金41.1%、DC13.0%、DB7.4%となっている。適年および基金に関してみると、大規模企業では基金の解散、DBまたはDCへの移行が進んでいる一方、小規模企業では加入している総合型基金および適年の見直しが遅れているため、DBまたはDCへの移行が順調ではないことが伺われる。


適年の見直しに関しては、確定給付企業年金法が施行された平成14年4月時点で適年があった企業数割合は35.8%で、そのうち何らかの見直しを行った企業数割合は42.7%となっている。その見直し内容(複数回答)をみると、「中小企業退職金共済制度(中退共)への移行」が17.2%と最も高く、次いで「DCへの移行」が10.1%、「DBへの移行」が7.9%、「適年を廃止」が5.7%となっている。今後何らかの見直しを予定している企業数割合は24.0%で、「DBへの移行」が10.2%、「DCへの移行」が7.5%、「中退共済への移行」が6.6%、「見直し内容が未定」が26.6%となっている。特に見直し未定の割合は小規模企業に多く、移行先についても、DBおよびDC移行予定は少ない。


適年の契約件数は、今年3月31日で32,826件と企業年金2法が施行された頃と比較して45%にまで減少しているが、改正法人税法に規定されている期限(平成24年3月)までの残り3年半ですべての契約が見直しされることは厳しい状況にあるといわざるを得ない。


このような状況を踏まえて、厚生労働省は、6月に残存する適年の円滑な移行のため関係6省庁からなる連絡会議を設置し、10月以降、移行状況、移行の阻害要因を探るため、全事業所および全金融機関へのアンケートを実施する。さらに、移行先としての企業年金(DB、DC)の環境整備を進めている。


受託機関の信託銀行および生命保険会社ならびに商工会議所等も問題解決に向けて、様々な取組みを行っている。


しかしながら、あくまでも適年見直しの決断の主体は企業自身であり、経営トップが企業年金を給与・賞与と並んで従業員の勤労意欲を高め、よりよい人材を集めることを目指した企業の活性化策との認識の下に、早期に適年の見直しに着手することを願うとともにコンサルタントとして現場に身を置く者として微力ながらお役に立ちたいと思う次第である。

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