早々に達成された年間訪日客数目標2,000万人

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10月31日、観光庁により2016年の訪日客数が既に2,000万人の大台を超えたことが発表された。2012年時点で800万人強にすぎなかった訪日客数は、2013年以降飛躍的に伸び、実に4年で3倍近い数字へと迫っている。


2013年に初めて訪日客数が1,000万人を突破した後、政府は「2020年に2,000万人」の目標を掲げた。4年もの前倒しで達成したことになる。既に2016年3月、政府は「2020年に4,000万人」へと目標水準を倍増させており、引き続き観光振興に取り組む姿勢が鮮明である。


筆者は2014年1月のコラムにて、訪日客数増加においてアジア諸国、とりわけ中国の潜在性が重要になると指摘した。この点に大きな変化はないものと考えている。文字通り桁の違う人口規模に加え、経済成長と訪日率(100万人当たりの訪日客数)などを考えても、引き続き中国のポテンシャルは大きい。


実際、2013年から15年にかけ、中国からの訪日客は131万人から499万人へと280%の伸びを記録し、一気に国別首位へと踊り出た。2016年についても、1~9月の速報ベースで500万人を超えており、増加が続いている。「2020年に4,000万人」を目指す上で、やはり中国からの訪日客がカギになるものと思われる。

図表1:東アジアからの訪日客数

中国に限らず他のアジア諸国の訪日客数の増加も目覚ましい。その背景としてはアベノミクスの下での円安トレンドや、アジア新興国の経済成長に加え、一部の国ではビザの緩和・撤廃などが複合的に寄与しているものと考えられる。この場合、個別国のデータを時系列に、または10ヵ国のデータを単年度で確認するだけでは議論に限界がある。


そこで、「ビジット・ジャパン・キャンペーン」が始まった2003年から2015年までのデータを10ヵ国のパネルデータとし、下記のモデルで各要素の影響確認を試みた。その際、影響が大きいと思われる短期滞在ビザの要否を示すダミー変数を加えたほか、経済要因に関わらず訪日客が大きく落ち込んだ2011年について東日本大震災ダミー変数を加えている。

GDPあたりのエネルギー消費量(左軸)および発電量に占める再生可能エネルギー比率(右軸)

上記を解釈すれば、各国・地域からの人口100万人当たり訪日客数については下記の傾向を見ることができる。

  1. ドル建てでの1人当たりGDPが1%増える →1.5%の増加
  2. ドル円が1%円安に振れる →1.4%の増加
  3. 短期滞在ビザが免除される →25%の増加

上記③のビザについて付言すると、今回対象とした10ヵ国のうち、観光目的の短期滞在ビザが免除されていない国は中国とフィリピン、ベトナムのみである。そのため、他の7ヵ国における更なる上積みは期待出来ない。2020年4,000万人を目指す上では、中国などからの観光客に対するビザ要件の撤廃も一考に値すると思われる。


なお、各年の数字を見ると2014~15年は正の誤差項が大きくなっている国が多いが、これは近年の訪日プロモーション、LCCの発展、Wi-Fiや外国語看板の整備といった、モデル上に出現しない要素の政策効果も多分に含まれているものと推測される。実際2016年は分析対象に含んでいないが、月次の訪日客数は1月以降の円高傾向にもかかわらず昨年比で増加が続いており、所得や為替以外の要素も寄与しているものと考えられる。2020年の東京オリンピック開催に向けて、一段の訪日客数増に期待したい。


【参考文献】
Neiman,B. and Swagel, P. (2009) “The Impact of Post-9/11 Visa Policies on Travel to the United States”
市川雄介・多田出健太(2016)「インバウンド需要の決定要因~円高は中国よりもNIEs諸国で影響大~」(みずほ総合研究所)


(※1)短期滞在ビザの免除状況のみを、各国・各年について「免除なし=0、免除あり=1」で算入。暦年の途中で免除された場合、免除された時点以降の月数を12で割って算入した。
(※2)各国の個別特性は、経年変化しない固定効果と捉えた。日本からの距離、海外旅行性向などに基づくものと解釈できる。(例:距離が遠い国では訪日へのハードルが高い、国内旅行機会が多い国では訪日への関心が薄い、など)
(※3)系列相関を除去するため、1年前(t-1)と2年前(t-2)の誤差項を加えている。そのためサンプル期間は2005~15年の11年間となる。

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