2015年12月07日
2015年末のASEAN経済共同体(ASEAN Economic Community:AEC)の発足に向けた動きが活発化している。ヒト、モノ、カネの自由な流れを標榜するAECは、チャイナ・プラスワンの生産拠点としての魅力に留まらず、人口6億人を擁する巨大な消費市場としても大きな期待が寄せられている。そうした中、ASEAN諸国で進展する急激な高齢化についての指摘もある。国連の推計によれば、ASEAN諸国の人口は2015年に6億3,300万人であり、今後10年は年平均1%程度で緩やかに増加すると予測されている。その内、65歳以上の高齢者人口は同3,700万人で、今後15年間に年平均4%を上回るスピードで増加し、2030年にはほぼ2倍の7,200万人となり、10人に1人が高齢者という社会を迎えるという予測である(図表1、図表2、図表4、※1)。
国連では、65歳以上の人口が全人口に占める割合(以下、高齢化率)が7%を超えた社会は「高齢化社会」、更に同人口が増加して高齢化率が14%を超えると「高齢社会」と定義している。図表3では高齢化率が7%を超えた年を起点に、同14%を上回るまでの期間を示した。
世界全体では2005年に高齢化率が7%を超えて高齢化社会を迎え、35年後の2040年頃に同14%を上回り高齢社会になると予測されている。アジア全体では2015年から25年間、ASEAN諸国全体では2025年から20年間と予測されており、世界全体の高齢化のスピードを上回っている。日本の場合、1970年に初めて高齢化率が7%を超え、24年後の1994年に同14%を超えて高齢社会となった(※2)。
ASEAN各国について見てみると、高齢化の進展が速い国としてはシンガポール、タイ、ベトナムが挙げられる。シンガポールとタイの場合、既に高齢化社会に突入しており、約20年間かけて高齢化が進み、2020-2025年頃には高齢社会となる。この間、65歳以上人口はシンガポールでは約100万人、タイでは約700万人増加する。続くベトナムでは、2020年に高齢化率が7%を超えて高齢化社会となり、15年後の2035年には同14%を超えて高齢社会となる予測である。この間、65歳以上人口は約500万人増加する。一方、ミャンマー、インドネシア、フィリピンの3ヶ国では、高齢化社会は30~40年程度続き、周辺諸国と比較して緩やかな高齢化の進展が予測されている。
以上のように、ASEAN諸国の一部では、本格的な高齢化社会への突入が目前に迫っており、また他の地域では経験したことの無いスピードで高齢化が進展することが予測されている。こうした危機感から、ASEAN諸国政府と日本政府は、社会保障に関するハイレベル協議、実務者交流などを通じて高齢者問題についての知見や経験の共有を行ってきた(※3)。今後は日ASEANの官民協議会を設置し、更なるノウハウの共有を目指す方針との報道もある(※4)。
ASEAN諸国では昨今の経済成長により急増した中間層が消費市場を拡大している中、シニア向け市場の開拓は緒に就いたばかりである。世界に先駆けて超高齢社会を迎えた日本に対しては、健康・医療分野をはじめとした課題解決先進国として、シニア関連サービスのノウハウを活用した貢献に期待が寄せられている。




(※1)United Nations, Population Division, Department of Economic and Social Affairs “World Population Prospects: The 2015 Revision” 閲覧日2015年9月3日2015年以降は推計値。
(※2)内閣府「平成27年版高齢社会白書」 閲覧日2015年9月3日
(※3)厚生労働省ウェブサイト「国際的なActive Aging(活動的な高齢化)における日本の貢献に関する検討会」 閲覧日2015年11月30日
(※4)読売新聞2015年10月26日夕刊1面「日本の高齢化対策伝授 官民協議 ASEAN支援へ」
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