2015年08月31日
フィリピンでは今、「クラーク・グリーン・シティ(CGC)」構想が脚光を浴びている。これは、マニラ首都圏から北に100km強離れたクラーク特別経済区の一画(9,450ヘクタール)に、環境負荷が小さく災害に強い大規模な環境配慮型都市を開発するという国家計画である。
このような都市構想の背景には、マニラにおける過剰な人口集中とインフラ未整備による様々な問題がある。例えば、深刻な交通渋滞やその排気ガスによる大気汚染、台風が来るたびに頻発する道路の冠水や洪水被害といった脆弱な防災機能などである。
これに対し、承認されたCGCのマスタープランによると、①公共交通網や自転車専用レーンを整備することで交通渋滞を抑制する、②温室効果ガスの排出が少ない再生可能エネルギーで電力需要をまかなう、③標高が高く活断層がない立地に開発することで洪水や地震といった災害リスクを低減させる、④低価格の住宅も提供することで様々な所得層の人々が住む多様性を確保する、⑤都市全体のエネルギー利用、交通、環境関連の情報を一か所で統合管理し、サービス向上を図る、といった様々な取り組みが計画されている。また、マニラ首都圏とCGCを結ぶ各種交通インフラの整備も併せて計画されており、実現すればマニラとのアクセスもさらに向上する。
これらが概ね計画通り開発されれば、マニラにおいて人口集中がもたらす上述のような問題の悪化に歯止めがかかるとともに、フィリピンで初となる本格的な環境配慮型都市が実現することになろう。なお政府は、CGCが完成すれば年間1.57兆ペソ(約4.0兆円)の経済効果が見込まれると試算している。
現状では、開発第1フェーズ(総面積288ヘクタール)の入札が始まったばかりであるが、日系企業を含む多数の企業が関心を寄せている様子である。日本も官民一体となって環境を軸とした都市インフラ輸出を目指す中、フィリピンの都市開発は格好の投資機会ではないだろうか。とりわけ、太陽光発電システムなどの電力インフラの整備、排水・廃棄物処理や資源のリサイクル整備、都市交通網の整備など、環境配慮の街づくりに必要とされる技術やノウハウのニーズは高いものと考えられる。
一方で、CGCの実現には課題も少なくない。特に、ゼロからの開発となるため、最初に投資する企業が十分に集まらない可能性があること、またフィリピンでは日常茶飯事だが、プロジェクトが計画通りに進まない可能性が大いにあることなどが挙げられる。とはいうものの、高成長を続けるフィリピンでの巨大都市開発のポテンシャルは大きい。中長期的な観点から、日本の優れた環境技術が導入され、フィリピンにおいて次世代の都市建設が実現することを期待したい。
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