2015年06月17日
日本全体の人口減少が加速している。先日、厚生労働省から発表された人口動態統計によると、平成26年の合計特殊出生率(一人の女性が一生に産む子供の平均数)は1.42となり、9年ぶりに低下した。今後、団塊ジュニア世代の出産の減少が見込まれることを考えると、出生率が大きく増加することは考えにくい。
さらに人口減少の大きな要因として考えられるのが、人口の東京一極集中である。東京圏の出生率は全国平均に比べて極端に低い。先述の人口動態統計によると、東京都の合計特殊出生率は1.15で全国最低である。このような東京圏に人口の集中傾向が続いている。平成25年では1都3県への転入超過数は10万人近くであり、この大半が15~24歳の若い世代が占めている。このように若い世代が出生率の低い東京に集中することは人口減少を加速させる要因となっていると考えられる。政府の平成26年12月に公表した「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」でも「東京圏への人口の集中が、日本全体の人口減少に結び付いている」と指摘している。
日本全体の出生率を上げるためには、東京一極集中の流れを変えること、そして東京の出生率を上げることが考えられる。前者は現在、地方創生の名のもとで、国と地方が総力を挙げて人口ビジョンと総合戦略の策定に取り組んでいる。本稿では、後者の東京の出生率について考えてみたい。
図表1は東京23区別の合計特殊出生率を降順に見たものである。これより、全国平均(1.43)を上回っているのは江戸川区のみであることがわかる。また、出生率が1を下回る区が6区あり、東京都全体の出生率を押し下げている。全体的に東側の区は出生率が高く、西側の区は低い傾向にある。

次に、このように同じ東京都内の区部でこれだけ出生率の差が生じる理由はどうしてなのか考えてみたい。図表2は東京23区の合計特殊出生率(2013年)と30歳~49歳の女性の未婚率(2010年)の関係を示した図である。明らかに高い相関があることがわかる。ただ、これはある意味当然とも言える。日本では結婚した女性から子供が生まれるケースがほとんどだからである。
図表2が示すことは図中のポジションを右下から左上に上げること、つまり、30歳~49歳の女性の婚姻率を上げる(未婚率を下げる)ことが出生率を上げるということである。そのためには特に出生率が1を下回るような渋谷区、新宿区、中野区、杉並区、豊島区、目黒区の女性の未婚率がなぜ高いのかという問いに答える必要がある。特に、渋谷区は30歳~49歳の女性の未婚率が50%近い。
この問いに答えるにはアンケート調査などをして精緻に調べる必要があるが、ざっとみたところ、未婚率が高い区は比較的繁華街や業務集積地に近く、交通利便性が高い区が多いように思われる。これらの区は住居費も比較的高いと思われるが、30歳~49歳のそれなりに収入のある独身女性であれば、住むことは可能である。彼女たちが結婚時に、いずれ子供を持つことを考え、よりよい子育て環境や広い間取りを確保できる郊外に移り住んでいるのであれば、結果的にこれらの区の女性未婚率が高くなっているのかもしれない。そうであれば、結婚して子供ができても、住み続けられるような子育てにやさしい環境づくりが女性の未婚率を下げる、つまり出生率を上げる有効な施策である。

現在、国の指針に基づき、全国の地方自治体が自地域の人口動向や将来推計人口に基づき、中長期の将来展望を提示する「地方人口ビジョン」を策定中である。「地方人口ビジョン」策定にあたっては、仮説を立てた上で、上述のようなデータによる分析とデータでは捉えきれない住民意識を把握し、検証することが重要である。
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