2015年05月21日
ユーラシア大陸に広大な国土を有するロシア連邦は通常、ヨーロッパに分類される。現在の首都であるモスクワや帝政ロシア時代の首都サンクトペテルブルクはヨーロッパ側に位置し、ロシアをヨーロッパ系の国と捉える日本人が多いだろう。一方で、ウラル山脈を境に、その以西をヨーロッパロシア、以東をアジアロシアと呼ぶこともある。シベリアから極東にかけてはアジアである、というわけだ。ただ、トルストイやドストエフスキー、チェーホフといったロシア文学やバレエなどでは知られるロシアも、その他の面ではあまり知られていない。日本にとって、ロシアは隣国であり、経済上、安全保障上、また、エネルギー資源確保においても重要な意味を持つ国である。そして、現在、日本に最も近い極東ロシア開発について、ロシア政府は新たな省を設立し、本腰を据えての取組を始めている。日本にとっても、天然・エネルギー資源確保はもちろんのこと、インフラ整備や医療分野での輸出など、同地域への期待は高まっている。ウクライナ情勢に対する対ロ制裁など、日本とロシアとの関係が順風満帆とは言えない一方で、中国や韓国が極東ロシアへの進出を進める様子も報道されている。
そこで、ロシアの統計をもとに、隣接するロシア極東地域について概観してみたい。なお、ここでは、ロシアの極東連邦管区を「極東」として捉えることとする。
ロシア連邦は8つの連邦管区から成り、極東連邦管区は9つの地域で構成されている。

面積ではロシア連邦全域の36%と広大な割合を占めている。2014年の域内総生産は全体の5.4%である。また、人口では2013年に4.3%を占めているが、域外への人口流出が進んでいる。

極東連邦管区の産業別域内総生産比率をロシア全域と比較すると、ロシア全域では、製造業が卸・小売の18.2%に次いで2位(17.3%)であるのに対し、極東連邦管区では製造業は5.3%と小さい。一方、金やダイヤモンド、天然ガスなど資源が豊富であることから、鉱業が27.1%と大きな割合を占めており、資源への依存が大きい。

極東連邦管区内の各地域に対する海外からの投資額の推移(2010年~2013年)では、概ねロシア全域の1割前後の投資が同管区に入っている(11年は17.3%と大きい)。地域別の国別・分野別FDI金額のデータはこの統計からは得られなかったため、どの分野に投資が入っているのかは分からないが、資源関連への投資が多いと推察される。

ロシア政府は、極東開発を重要課題の1つとして掲げており、2012年5月に極東開発省を設立し、開発に鋭意取り組んでいる。同省では、極東地域に先進的社会経済開発区を設置し、外資を誘致することを計画の1つとして打ち出している。当初の計画では、2014年に340億ルーブルの投資を誘致するとされていたが、先進的社会経済開発区に関する法案が採択されたのが2014年12月29日となったことから、2014年の計画は未達となっている。同開発区では、土地利用や賃貸料、納税など多くの点で他の特区などよりも好条件の提供が想定されている。ただ、工業団地や経済特区の開発にあたっては、恩典の厚さよりもインフラや立地などの利便性がより重要なファクターとなる。「良好な投資環境の整備」を活動の方向性の1つとして掲げる極東開発省が、いかに魅力的な投資環境を構築し、外資誘致、人口流出への歯止めを実現できるのか、今後の動きに注目したい。

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