2014年11月20日
一国の経済を測るときに最も良く使われる指標は、国内総生産(GDP)である。では、国民一人あたりの経済的な豊かさを見るときには、何を使うのが良いのであろうか。一般には、GDPを人口で割った「一人あたりGDP」(GDP per capita)が最も良く使われているであろう。
だが、昨年6月に安倍首相が「成長戦略第3弾スピーチ」(※1)で、最も重要な指標として「一人あたりの国民総所得」、すなわち「一人あたりGNI」(GNI per capita)を取り上げたことから、こちらの指標もかなり知られるようになってきた。もっともGoogleで検索してみると、GDP per capitaは3,880万件、GNI per capitaは42万5千件と非常に大差があるが(※2)。
国際機関の使用例を見てみよう。世界銀行(World Bank)では「一人あたりGDP」ではなく、「一人あたりGNI」を使って国を分類している。

では、GDP(国内総生産)とGNI(国民総所得)では何が違うのか。その関係は次のようになっている。
GNI=GDP+「海外からの所得の純受取」
さらに、「国民総可処分所得」(GNDI)という概念もあり、次のような関係になっている。
GNDI
=GNI+「海外からの経常移転の純受取」
=GDP+「海外からの所得の純受取」+「海外からの経常移転の純受取」
「海外からの所得の純受取」とは、「雇用者報酬」(居住者による非居住者労働者に対する報酬の支払と、居住者労働者が外国で稼得した報酬の受取)、「財産所得」(居住者・非居住者間における対外金融資産・負債に係る利子・配当金の受取・支払など)からなる。「海外からの経常移転の純受取」とは、消費財にかかる無償資金援助や労働者送金などが含まれる。
さて、途上国では、この三者の違いがかなり大きいことがある。その理由のほとんどは、海外に出稼ぎに行った労働者からの送金によるものだ。
通常、海外に出稼ぎに行った労働者の滞在期間が1年未満の場合は、その送金は「海外からの所得の純受取」の中の雇用者報酬に分類される(GDPに入らずGNIに含まれる)。1年以上滞在しているか、あるいは滞在する見込みの者からの送金は「海外からの経常移転の純受取」の中の労働者送金に分類される(GNIに入らずGNDIに含まれる)。つまり、出稼ぎ労働者からの送金が多い国では、GDP < GNI < GNDI となる。
下記はその典型例。南アフリカ共和国に取り囲まれた位置にあるレソト王国では、南アフリカの鉱山への出稼ぎ労働者の収入が、その経済の重要な収入源となっている。

国内の景況を正確に反映する指標としてはGDPが適切である。だが、国民の購買力や貧困の程度を測るのにはGNI、GNDIのほうが優れている(もっともGNDIは統計のアベイラビリティが良くない)。実際、世界銀行の統計集World Development Indicatorsでは、GDP per capitaはその成長率を載せ、GNI per capitaはその名目ドル額を掲載している(※4)。
途上国を見る際には、「一人あたりGDP」だけではなく「一人あたりGNI」もチェックしてみよう。

(※1)平成25年6月5日、安倍総理 「成長戦略第3弾スピーチ」(内外情勢調査会)。
(※2)2014年11月7日検索。
(※3)なお、中所得国は、「低中所得国」(lower-middle-income economies、1,046ドル以上4,125ドル以下)と「高中所得国」(upper-middle-income economies、4,126ドル以上12,745ドル以下)に分けられる。
(※4)World Bank, World Development Indicators, 1.1,
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