買収対応方針(買収防衛策)の近時動向(2025年9月版)

「同意なき買収」時代における買収対応方針の効果と限界

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  • コーポレート・アドバイザリー部 主任コンサルタント 吉川 英徳
  • コーポレート・アドバイザリー部 コンサルタント 山本 一輝

サマリー

◆買収対応方針(買収防衛策(※1))の導入社数は2025年6月末で235社となっている。前年同月比16社減であり、引き続き買収防衛策の導入社数は減少傾向にある。2025年6月株主総会シーズン(2024年7月~2025年6月)における買収防衛策の導入・廃止・継続の状況は新規導入9社(うち4社が特定標的型の有事導入)、継続71社、廃止・非継続19社であった。

◆買収防衛策の導入社数が減少している背景には、前年同様、機関投資家の買収防衛策に対する目線が厳しく株主総会での継続議案に対して賛成票確保が難しい点、有事導入型が実務的に定着してきており平時から買収防衛策を導入する理由が薄れてきている点が挙げられる。その結果、買収防衛策の導入・継続企業の大部分が機関投資家株主比率の低い時価総額1,000億円未満となっている。時価総額1兆円以上で買収防衛策を導入している企業は1社に留まっている。

◆2023年8月の経済産業省による「企業買収における行動指針(企業買収行動指針)(※2)」の策定以降、日本企業に対する同意なき買収が目立ってきている。本年においても、小売業S社や機械M社に対する買収を含め9件(※3)の同意なき買収が実行されている一方で、対抗措置として買収防衛策を導入しているケースは2社に留まっている。

◆アクティビスト投資家等の市場内取得により持ち分比率を高めて経営権に影響を及ぼす「(強圧的な重要提案行為を含む)ステルス買収への牽制」や、事業会社による買収提案の「検討時間の確保」を目的とした買収防衛策は一定の機能を果たす。一方で、企業買収行動指針には買収防衛策の「対抗措置発動」に際して株主意思確認決議の必要性が明記されており、真摯な買収提案に対して買収防衛策で対抗するには、一般株主の支持が不可欠となっている。有事における対抗措置の手法が限られる中で、平時における企業価値向上への取組みの重要性が今まで以上に強まっている。

(※1)以下本稿においては「買収対応方針」を「買収防衛策」として記載する
(※2)以下本稿においては「企業買収における行動指針」を「企業買収行動指針」として記載する
(※3)REITへの同意なきTOBである2件を含む

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