2014年04月23日
近年、われわれを取り巻く製品、賃金、税率など、あらゆるものの価格が大きく変化している。たとえば、原油価格はここ数年、高騰傾向が続いている。また近年では資材価格等の高騰も日本経済に大きな影響を与えている。また、建設業では人件費の高騰が建設業のみならず、関連産業に大きな影響を与えている。さらに、税制面では、本年4月から消費税率が8%になり、2015年10月からは10%に上昇することが予定されている。このような価格の変化は、日本の産業にどのような影響を与えるだろうか。本稿では、特定産業あるいは産業全体のものやサービスの価格の変化があったときに産業全体にどのような影響を与えるかを分析できるツールとして、産業連関表を用いた価格波及分析について述べてみたい。
産業連関表を使った分析というとまず思い浮かべるのは経済波及効果の計測であると思う。多くは道路・空港・港湾・鉄道等の大規模公共事業や大規模イベント等が国全体や地域に及ぼす生産誘発額、付加価値誘発額を計測するものであり、その付随的な効果として、雇用誘発推計や税収推計、また環境負荷物質排出推計等も行われることもある。これについては、筆者も過去のコンサルティングインサイトで概説してきた(※1)。
通常よく行われる経済波及効果の分析は均衡産出高分析とも言われ、外生部門である最終需要が増加したときに、内生部門に生じる変化を通して、生産が誘発される様子を見るものである。これに対して、価格波及分析はもうひとつの外生部門である粗付加価値部門の価格が変化したとき、内生部門に生じる変化を追うことにより価格の波及を見るものであり、均衡価格分析とも呼ばれる。
ここで、均衡価格分析の流れを例で示すと以下のようになる。たとえば、原油価格が上昇するなどで石油製品価格が上昇したときに他産業の製品価格へ波及する様子を見たものである。
- ガソリン、軽油、重油、合成樹脂など石油製品価格部門の価格が上昇し、粗付加価値率が上昇したとする。
- 石油製品部門はその分だけ価格が上昇する。
- 石油製品を中間財として投入している運輸サービス、石油化学製品などのコストが上昇する。
- 運輸サービス、石油化学製品などの価格が上昇する。
- さらに運輸サービス、石油化学製品を中間投入としている製品価格のコストが上昇し、価格が上昇する。
- 一見、石油製品とは無関係と思われるさまざまな産業のコストが上昇し、価格が上昇する。
このように、次々に価格波及が進み、あらゆる産業に波及している様子は産業連関表を用いた価格波及モデルを用いて捉えることが可能である。モデル式に関しても、経済波及効果の場合とほぼ同様な形のモデル式で計測が可能であるが、経済波及効果と大きく異なるのは経済波及効果の場合はインプットが最終需要の増加であるのに対し、価格波及の場合はインプットは当該製品価格の変化率であるという点である。
上で述べたような製品・サービス価格の上昇は、当該産業のみならず、関連する幅広い産業に影響を及ぼす。産業連関表を用いた価格波及分析はこのような価格変化に伴い影響を包括的に捉えることが可能であり、政策形成や自産業に及ぼす影響等を知る上において非常に有効な分析であると思われる。幸い日本では、産業連関表の整備は充実しており、全国版に加え、各都道府県、政令指定都市の多くが自地域の産業連関表を作成しており、地域レベルでの分析も可能である。価格変化への関心の高まりによって、産業連関表を用いた価格波及分析の有用性も高まっていると考える。
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