2013年10月17日
去る9月29日、中国(上海)自由貿易実験区(China(Shanghai)Pilot Free Trade Zone以下「CSPFTR」)のマスタープランが国務院から公布されたことを受けて、CSPFTRは上海浦東に看板を掲げられ、正式にスタートした。中国の改革・開放事業の新たな突破口として期待されるこの大実験は今、世界から高い関心が寄せられている。
CSPFTRは地理的には上海浦東新区にあり、外高橋保税区、外高橋物流保税区、浦東空港保税区、洋山港保税区の四つの保税区を中心地とし、面積約28平方km、概ね山の手線内側の半分に相当する広さである。中央政府及び上海市政府が公表した情報を分析する限り、CSPFTRに係る主な政策内容及び目指す目標として、下記の5点が挙げられている。
1.更なる開放策を通じて外部からの力で政府のステータス転換を推進する。つまりCSPFTRのニーズに合わせて、政府の行政改革を図り、国際化、法治化の基準に沿って、国際水準の投資及び貿易管理体制に対応した行政管理体制を形成する狙いである。
2.サービス業分野において外国投資を受け入れる領域を更に拡大する。具体的には、第1ラウンドとして、金融業、海運業、商業、専門サービス業、文化サービス及び社会サービス業の六大分野において18項目の規制緩和を実行する。
3.伝統的貿易方式を調整して、最先端の物流インフラ、ブランド力、近代サービス業を中核とした貿易産業の高度化を実現する。従来の貨物商品に金融要素、サービス貿易要素を加えることがポイントになる。
4.金融業にかかわる規制を大幅に緩和する。人民元取引の自由化を視野に外貨管理体制を調整し、外資系金融機関の進出規制をも緩和し、金融面から自由貿易の基盤づくりを目指す。
5.法整備を進め、自由貿易に備える新たな制度体系を作る。先ず、外資規制関連4法を事実上執行停止し、新たに中国初のネガティブリスト(※1)方式を導入する予定である。
上記5点の施策内容の中で、外資進出規制緩和と開放分野拡大がもっとも注目されるポイントになる。
しかし、なぜ今この国家レベルのプロジェクトが必要になっているのだろうか。その背景を探ってみた。概ね以下の3点の要因がみてとれる。
第1点、中国の改革・開放の歩みは2001年世界貿易機構(WTO)への加盟実現に伴い、一段落し、その後足踏みの状態が続いてきた。改革・開放策による経済・社会の発展促進効果は近年次第に低落している傾向にある。所謂、改革・開放がもたらしたボーナス効果が賞味期限を迎え、これまでのような経済成長の趨勢を維持するためには、より大胆な規制緩和が不可欠になった。第2点、中国における官製資本主義政策が約30年間の高度経済成長を実現しながら、ボトルネックの制度諸問題が日々顕著となった。例えば、国有経済寡占化による民間活力の低下、公務員の腐敗蔓延、経済発展と環境保護のアンバランス、市場経済の発展に必須な法治社会機能が依然として欠如するなど様々な矛盾が露呈し、秩序ある経済・社会発展の大きな阻害要因になっている。第3点、TPP(環太平洋経済連携協定)の会合推進が外部要因として中国の投資貿易の規制緩和に刺激を与えたとみられる。
中国は前世紀80年代の「深圳特区」実験が全国広範囲に「改革・開放」の潮流をもたらし、約30年間の経済の高度成長を実現したが、今大きな歴史的転換点に立たされている。CSPFTR実験区が中国の未来の発展にどれだけの影響を与えるか注目したいところである。
(※1)原則として規制がない中で、例外として 禁止するものを列挙した表である。CSPFTRの場合、国民経済統計分類の1069業種の約17.8%を管理許可対象に指定、その他の約80%について許可制を撤廃する予想である。
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