2013年09月26日
わが国を含む国際社会では近年、地域の安定と発展には「民主主義」が不可欠であるとの認識が広まりつつある。民主主義的な政治体制を確立することで国民の統治への参加が可能となり、結果として人権の保護が推進される。このように民主主義と人権は密接不可分であるとの考え方から、各地でいかに民主化を進めるべきか、様々なレベルで様々な議論が展開されている。わが国政府も、国連をはじめとする国際フォーラムへの参加や二国間の対話を通じて、世界各地の民主化を積極的に推進してきた。
それでは「民主主義」と呼ばれる政治体制とは、具体的にどのような政治形態を示すものであるのか。政治体制は、その国の法制度や選挙制度、官僚制度、政治文化など、政治に関わる無数の要素の組み合わせから成っており、国の数だけ存在すると言える。各国の政治体制を横に並べて比較することが不可能ともいえる中で、「民主主義である国」と「そうでない国」はどのように分類すべきなのか。
一つの切り口として、英Economist誌の調査機関、Economist Intelligence Unitが隔年で公表する「民主主義指数(Democracy Index)」がある。最新のレポート(2012年末時点)では全167の独立国家・地区の政治体制に関して、「選挙プロセスと多元主義」、「政府の機能」、「政治参加」、「政治文化」、「市民の自由」の5分野から民主主義の度合いを評価、指数化が行われている。その結果、167カ国は指数が上位の方から①完全な民主主義、②欠陥のある民主主義、③混合体制、④権威主義体制の4グループに分類されている(図表参照)。
なお、この調査は60の調査項目(レポート内で公開)について、専門家による評価と世論調査(World Value Survey:世界価値観調査、等)を組み合わせて分析しており、内容としては選挙の公正性、投票率の水準、メディアの自由度など、現在の国際社会で共有されている「民主主義」のイメージを概ね反映したものであると考えられる。
意外なことに、最上位グループである「完全な民主主義」に分類されているのは、167カ国中25カ国と全体のごく一部に留まる。うち大半を欧米諸国が占めており、アジアでは韓国(20位)、わが国(23位)の2カ国のみが該当した。
一方で下位2グループ、すなわち「混合体制」と「権威主義体制」に該当する国家は、全体の半数以上に上る。わが国とは緊密な関係を構築しているアジア諸国についても多くが該当し、中でもベトナム、ミャンマー、ラオスは「権威主義体制」に分類されている。なお、権威主義体制とは、無限の多元性を許容する「民主主義体制」に対極する体制を表すが、その様態は非常に幅広い。
留意すべきは、他国に対して民主化を働きかけている民主主義側の国であっても、自身が欠陥を抱えている場合があるし、さらに経済危機などをきっかけとして政治不信が著しく高まる場面では民主化が後退することもある。一方で、権威主義側の国であっても、例えば民主化運動や政権交代などがきっかけとなり、社会や経済が大きく変貌を遂げながら民主化へ大きく前進する可能性がある。
例えばミャンマーを取り上げると、1988年以降、長らく軍事政権による支配が続いてきたが、2008年の国民投票で新憲法が成立し、2010年の総選挙で新政権が誕生した。しかしながら、20年ぶりに国民選挙が行われたとはいえ、アウン・サン・スー・チー氏の自宅軟禁を不服として民主化政党である国民民主連盟(NLD)が選挙をボイコットしたこと、上下両院議員に加えて大統領、主要閣僚等の選出プロセスで国軍が非常に大きな影響力を及ぼしていることなど、様々な要因を背景に、国際社会が選挙後ただちに民主化を認めることはなかった。
ただしその後、テイン・セイン大統領による一部政治犯の解放、NLDや少数民族との和解など、急速な民主化への動きを受けて、米国は経済制裁の解除を発表するとともに、オバマ大統領が2012年11月に現職大統領として初めてミャンマーを訪問。わが国やその他の欧米諸国でも、同国の国際社会への復帰を後押しする流れが急速に強まっている。
もっとも、選挙制度の改革や指導者の交代などが実現したとしても、直ちに民主主義が定着するとは限らない。その国の社会、経済、歴史等における変化も伴いながら、その国に相応しい「民主主義」を、時間をかけて作り出すプロセスが必要である。ミャンマーでは2015年秋に次期総選挙が実施される見込みで、どのような政権が誕生するかが注目されている。選挙の結果だけに留まらず、その過程で政党の多元性はどれくらい確保されたのか、国民は自由な意思で投票することができたのか、メディアは自由に報道することができたのかなど、様々な視点からミャンマーの民主化の進展を見守る必要があると考える。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
コロナ禍を踏まえた人口動向
出生動向と若年女性人口の移動から見た地方圏人口の今後
2024年03月28日
-
アフターコロナ時代のライブ・エンターテインメント/スポーツ業界のビジネス動向(2)
ライブ・エンタメ/スポーツ業界のビジネス動向調査結果
2023年04月06日
-
コロナ禍における人口移動動向
コロナ禍を経て、若年層の東京都一極集中は変化したか
2023年03月31日
関連のサービス
最新のレポート・コラム
よく読まれているコンサルティングレポート
-
アクティビスト投資家動向(2024年総括と2025年への示唆)
「弱肉強食化」する株式市場に対し、上場企業はどう向き合うか
2025年02月10日
-
退職給付会計における割引率の設定に関する実務対応について
~「重要性の判断」及び「期末における割引率の補正」における各アプローチの特徴~
2013年01月23日
-
中国の「上に政策あり、下に対策あり」現象をどう見るべきか
2010年11月01日
-
買収対応方針(買収防衛策)の近時動向(2024年9月版)
ステルス買収者とどう向き合うかが今後の課題
2024年09月13日
-
サントリーホールディングスに見る持株会社体制における株式上場のあり方について
2013年04月17日
アクティビスト投資家動向(2024年総括と2025年への示唆)
「弱肉強食化」する株式市場に対し、上場企業はどう向き合うか
2025年02月10日
退職給付会計における割引率の設定に関する実務対応について
~「重要性の判断」及び「期末における割引率の補正」における各アプローチの特徴~
2013年01月23日
中国の「上に政策あり、下に対策あり」現象をどう見るべきか
2010年11月01日
買収対応方針(買収防衛策)の近時動向(2024年9月版)
ステルス買収者とどう向き合うかが今後の課題
2024年09月13日
サントリーホールディングスに見る持株会社体制における株式上場のあり方について
2013年04月17日