2012年02月15日
日系企業がアジアでの海外事業を検討する際、進出先としてミャンマーが脚光を浴びている。
2011年3月にテイン・セイン大統領による新政権が誕生し、軍事政権から民政移管したミャンマー政府が急速な勢いで民政化に向けた舵を切っている。政治犯の釈放や諸規制撤廃・緩和などを背景に欧米の経済制裁解除も期待されている。ASEAN諸国との関わりでも、2013年には東南アジア版オリンピックともいわれるSEA Games(東南アジア競技大会)のホスト国、2014年にはASEAN議長国として就任が決定しており、本格的な国際復帰に向けた条件も整いつつある。
新政権の下、ミャンマーを取り巻く経済環境も大きく変化し、今後大きな成長が見込まれている。経済の開放路線を打ち出し、経済発展が加速しており、インフラ整備も急ピッチで進められている。その注目が高まるミャンマーについて、直接投資先としてのメリット・魅力について整理してみた。
◆ミャンマー進出のメリット・魅力
- 2011年3月に民政移管され、経済環境の整備も行われ、急速な経済成長性が見込まれる
- 天然ガス、鉱物など豊富な天然資源。広大な国土(約68万平方キロメートル)を有し、農作物も豊富
- 約6,000万人の人口を擁し、消費市場として魅力
- 低賃金で豊富な労働力があり、生産拠点として魅力
- ダウェー、ティラワなど経済特区(SEZ)における工業団地開発進行中。優遇税制措置あり
- インド・中国の中間に位置し、地理的好条件
- 識字率90%を超える知識水準の高さ
- 英国統治下時代があったため、ビジネスシーンでは英語での意思疎通がしやすい
- 親日的で勤勉な国民性。国民の約9割が仏教徒で一般的に温和な性格の人が多い。
- 治安の良さ
以上、今後成長性が見込まれ、事業投資先としての魅力を有するミャンマーではあるがビジネスを検討する上で、リスクなどの留意点もある。
一般にミャンマー進出検討の懸念事項として、電力不足、ドル送金規制、政府と少数民族の不仲、多重為替制度などがあげられる。現時点で課題であることに間違いないが、それぞれ解決に向けて努力されており、時間の経過ともに解消されていくことが期待されている。
ミャンマーでのビジネスを成功に導くためには、懸念される課題が解決されることも重要であるが、より一層根本的なことに目を向け、ビジネスの原点に注意を払うことが肝要である。ミャンマー進出成功の要素について以下の3点の条件をクリアすることが重要であると考えている。
◆ミャンマー進出成功・3つのキーファクター
- 最新の「正しい知識・情報」の収集力
- 実質的な意思決定に影響力を持つ「官公庁キーパーソン」の見極め、人脈
- 現地事情に精通したよきアドバイザーの確保
一例として、日系企業がミャンマーで法人設立をするケースを考えてみる。
外国資本による進出形態は、100%外資でもよいし、合弁企業の形態をとることでもよい。ただし合弁企業の場合、外資は全株式の35%以上の出資比率が必要になる。次に会社設立に関わる法律は会社法(1914年制定)だけの申請によるものか、外国投資法(1988年公布)の適用申請を事前にして、優遇措置を受けるべきかの選択が必要になる。なお、外国投資法を適用する場合は、最低資本金の金額が高くなり、業種により金額が異なる(出所:大和の事業投資ガイドシリーズ「ミャンマー2012」)。また委託加工貿易を行う企業の場合、事前にミャンマー投資委員会(Myanmar Investment Commission)に「CMPビジネス」としての申請・承認を得ることで、原材料輸入の免税を得ることができる。しかし正しい手順での手続きを怠っていると優遇措置を受けられなくなる可能性もあり、入念な事前チェックが必要になる。
このように法人設立の申請1つにしても、多くの申請方法、手順、組み合わせの確認が必要になる。さらに、急速に変化しつつあるミャンマー情勢では、提出書類の定型フォーム、提出先、承認機関、手順なども変化しており、新政権発足前と今日では変わってきている。
なお、CMP(Cutting, Making, Packingの略)とは委託加工形態による輸出入のことで、原材料を輸入、ミャンマーで加工し、完成品を原則すべて輸出し、加工者はその委託加工賃を得るという形態のことをいう。
これまでの実例が参考にならないケースも散見される。肝要なことは一般論でなく、個別論で行い、新しく正しい情報を得て、しかるべき人物や部署を見極め、相談し、ビジネスを推進することである。
また現地では当たり前のことでも、それを知らなかったためにビジネスが滞っている日系企業も目の当たりにしている。回避策として、現地の事情に精通し、親身になって相談に乗ってくれ、一緒に問題を解決してくれるよきアドバイザーを確保することもミャンマービジネス成功のカギである。アドバイザーのたった一言があるかないかで成否が決まることがありうる国なのである。
投資先として魅力度の高いミャンマーであるが、自社のみで判断する場合、リスクにも十分留意しながら進出の検討をされることをお勧めしたい。
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