2011年09月05日
日本国内の景気が停滞する中、中国やASEAN新興国の成長や消費購買力を自社に取り組みたいというニーズが日系企業で高まっている。
日本マーケットは少子高齢化、成熟したマーケット環境に加え、東日本大震災による広範囲かつ深刻な影響等の要因により、内需拡大の活路を見出すことに苦慮している。そのようなビジネス環境下、経済成長の伸びが大きいアジア新興国市場に目を向ける日系企業も多い。特に13億人という世界一の人口を擁する中国巨大マーケットに自社の商品やサービスを売り込み、中国の内需を取り込むことに関心が高まっている。直接投資を行い、店舗出店を通じた販路開拓という手段のほかに、インターネットによる販売方法が注目を浴びてきている。理由として2010年8月に中国の商務部公弁庁が出した通知により外資系企業への法規制が緩和されたという背景がある。本稿では中国インターネット通販ビジネスに関するビジネスチャンスと主要な課題・留意点について整理した。
中国インターネット販売におけるビジネスチャンス
1. 中国のインターネット人口は世界一
2010年12月末時点で中国のインターネット利用者人口は4億5700万人(CNNIC調べ)にのぼり、国別では世界一である。インターネットショッピングの市場規模も日本の市場規模を上回り、i-Research社によると2010年は約5兆7000億円に達したという。インターネットの普及率も30%台であり成長の余地もまだまだ大きい。昨今の経済成長から判断してもEコマースの利用人口、取引額ともに大きく拡大する可能性を秘めている。
2. 広大な中国はネット通販向きの国
日本の約26倍もの広大な国土をもつ中国は通販ビジネス向きの国である。インターネット人口もPCの普及により、ますます増える傾向にある。
3. 物流網のインフラ整備も進んでいる
物流網のインフラ整備も進んできている。また、商品を丁寧に扱うサービスをアピールポイントにする業者もあり、配達による商品破損のリスクを低減できるようになってきている。
4. 日本製品に対する信頼性も高い
日本製品に対する信頼性は高く、中国人の賃金所得上昇に伴い「多少高くとも品質がよく、耐久性の高い日本製品」を求める傾向はますます強くなると思われる。
5. 販売チャネルも多様化
日系企業がインターネットを活用して通販ビジネスを行う場合、自社サイトを開設する方法と淘宝網(タオバオワン)に代表されるようなECモールに出店する方法がある。自社サイトは更に「日本国内に設置する方法」と「中国国内に設置する方法」がある。淘宝網(タオバオワン)は、インターネットショッピングにおいて、中国国内で圧倒的なシェアを誇るWebサイトである。各販売チャネルにはそれぞれメリット・デメリットがあり、企業の経営戦略に応じて最適な手段を選択すればよい。
以上、日系企業が中国でインターネット通販ビジネスを展開する上での魅力について簡単に述べたが、実際にインターネット通販ビジネスを軌道に乗せるためには様々な障壁をクリアし、売上拡大を実現するための智恵が必要となる。中国におけるインターネット通販ビジネスの主要な課題と留意点を簡潔に整理したのでビジネスプラン検討の際には是非参考にしていただきたい。
中国・インターネット通販ビジネスにおける主要な課題と留意点
- Webサイトを立ち上げただけでは意味がない。認知され、アクセスされ続ける工夫が必要である
- 日本とは異なるSEO(検索エンジン最適化)対策が必要であり、中国人の消費行動を研究して集客手段を講じることが望まれる
- Webサイト関連費用はイニシャルコストだけでなく、ランニングコスト(Web更新、キャンペーン費用、問い合わせオペレーターの人件費)も予算に取り組む
- 代金決済、物流、通関、コールセンターなどの各機能の整備と機能連携による全体最適化を図る必要がある
- 中国商務部や中国工業情報化部などの法規制や政治体制の動きに対応する
- ICPライセンスの手続きが必要である。ICPとは「Internet Content Provider」の略語で、中国語サイトの管理制度である
- 偽物対策・コピー商品対策を行う
- 顧客情報漏えい防止などの情報セキュリティ対策を行う
このように中国インターネットショッピング市場は日系企業にとって魅力あるマーケットであり、取り組むべき価値のある市場である反面、実行するには日本のネット通販ビジネスとは異なる業務や様々なビジネスリスクも生じる。
ITシステムだけでなく、マーケティング戦略や法規制などにも精通した専門家に相談しながら進めることが中国インターネット通販ビジネス成功への近道である。
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