「働き方改革」を"地域で"広げていくために

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  • マネジメントコンサルティング部 主任コンサルタント 平田 裕子

「働き方改革」は国家の重要課題


誰もが生きがいを持って能力を発揮できる社会を実現する「働き方改革」は、「ニッポン一億総活躍プラン」における最大のチャレンジとして掲げられて以来、今後の日本経済の行方を左右する国家の重要課題となっている。働き方改革は、企業の生産性改善による業績向上や、労働環境改善による多様な人材の活躍をもたらすとされている。2017年3月には「働き方改革実行計画」が策定されており、現在、法制度整備や取組強化、ガイドライン策定などが進められている。


「働き方改革」と一言に言っても、論点は多岐に亘る(図表1)。本稿では育児・介護との両立実現に寄与する在宅勤務制度などの“柔軟な働き方”を例に挙げながら、「働き方改革」における“地域”の役割について考えてみたい。

「働き方改革実行計画」における検討テーマ

業種・業務と各種制度には相性がある


昨年実施された独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の「労働時間や働き方のニーズに関する調査」(労働者調査)(※1)によると、「働き方の多様化・柔軟化」に賛同する労働者は59.2%であり、反対の7.8%を大きく上回る(※2)。“柔軟な働き方”に対する現場ニーズは高いと言えよう。企業もそうした機運にこたえるべく積極的な対応を示しており、同JILPTの「労働時間管理と効率的な働き方に関する調査」(企業調査)(※3)によると、短時間正社員制度(※4)、朝型勤務制度、(柔軟な)フレックス制度、在宅勤務制度の各制度を導入する企業の割合は、それぞれ13.8%、10.7%、9.6%、3.2%にとどまるものの、「今後、検討余地がある」としている企業の割合は、それぞれ29.2%、20.4%、32.6%、11.7%にのぼっている。今後、柔軟な働き方を実現するための諸制度の導入拡大が予想されよう。


ここで、各制度の導入意向を業種別にみると、一定の傾向が見られる(図表2)。例えば、短時間正社員制度は、「宿泊業、飲食サービス業」や「医療、福祉」など、長時間のサービス提供(シフト制など)が求められる業種において導入に積極的な姿勢が見られる。他方で、在宅勤務制度は、「情報通信業」や「学術研究、専門・技術サービス業」など、創作や考察が求められる業種において積極的な姿勢が見られる。業種によって、各種制度との相性があり、裏を返せば、どのような業種であっても取り組むことのできる“柔軟な働き方”があることが示唆されよう。


筆者の会社は「情報通信業」に該当するが、昨年度から一部の社員に対して在宅勤務制度が導入されている。筆者も数回活用したが、その結果、(個人的意見であるが)在宅勤務制度が得意とする業務、苦手とする業務が見えてきた。そして、その“使い分け”が業務の効率化に大きく影響することを実感した。

  • ・ 得意な業務:資料等を読み込み解釈する作業、報告書や提案書の構想を考える作業など
  • ・ 苦手な業務:ディスカッションが必要なチームワーク作業、図表作成やデータ分析等PCの操作環境が求められるテクニカルな作業など

“柔軟な働き方”を例に見ると、業種や業務内容により各種制度との相性があり、その選定が、「働き方改革」の本来の目的である生産性向上や多様な人材の活用等の効果出現に大きく影響してくると想定される。企業は、現場の業務やニーズを十分に把握し、適所での制度導入や制度運用を進めることで効果の最大化を図ることが肝要となるだろう。

業種別の制度導入意向

“地域”の担う役割~改革を促すために~


個々の企業によって働き方が異なるなか、企業に働き方改革への取組みを促すために、“地域”(を担う地方公共団体)として何ができるだろうか?


まち・ひと・しごと創生本部では、働き方改革への施策として、「地域アプローチ」によるアウトリーチ支援(直接企業に出向き相談支援等を行う)を進めている。各都道府県に設けられた政労使等から成る「地域働き方改革会議」を推進母体とし、地域働き方改革包括支援センター(ワンストップセンター)を設置、働き方改革アドバイザーを養成し、地域企業へ直接相談支援などを行う取組みである(図表3)。働き方改革アドバイザーには、地域の中小企業診断士、社会保険労務士などが想定されており、個別企業の相談や地域事例の共有、助成制度の紹介などを行うとともに、地域独自の企業認証制度等を活用していく。政府はアドバイザーの育成や情報提供等でバックアップする。


前述のとおり、働き方の実態は個別企業により異なることから、国はもちろんのこと“地域”として共通解へ導くことは難しい。個々の企業に応じて効果を最大化できる改革へと丁寧に導く必要がある。これまで、“地域”は、ワーク・ライフ・バランス推進や女性活躍推進への取組みとして、働き方に関わる様々な普及啓発活動に取り組んできた。働き方改革への認知度が高まる今、個別企業にアウトリーチするための“拠点”としての役割を担うことは、「さて、どうすれば?」と戸惑う企業の現場ニーズに合致した取組みと言えよう。今後に期待したい。


また、“地域”が主体となることで、地域の課題解決とリンクさせることが可能となる。もともと、まち・ひと・しごと創生基本方針では、働き方改革を少子化対策として位置付けている。地域の少子化問題の背景には、地域の働き方の傾向が影響しているためだ。地域の問題意識(例えば、若者の非正規雇用、女性の育児離職など)に応じた働き方改革に取り組むことで、地域の課題解決に結びつける点も、役割として忘れてはならないだろう。

地域アプローチによる働き方改革

(※1)対象は全国の従業員100人規模の企業12,000社。回収数は2,412社(20.1%)。調査時期は2015年1~2月であり、2014年12月末時点の状況を尋ねた。
(※2)「賛成(現状を変える必要がある)」が26.2%、「どちらかといえば賛成」が33.0%、「何とも言えない・分からない」が29.2%、「どちらかといえば反対」が4.3%、「反対(現状のままで良い)」が3.5%、「無回答」が3.7%となっている。
(※3)対象は上記企業に雇用されている正社員60,000人。回収数は8,881人(14.8%)。調査時期は上記のとおり。
(※4)ここでは、育児・介護といった理由(法定)に依らず、例えば自己啓発等のために短時間勤務したり、ライフステージに応じてフルタイム⇔パートタイム勤務を選択できるような制度としている。

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