地域活性化の最前線 ソーシャルビジネスで社会的課題を解決せよ

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  • コンサルティング第三部 主任コンサルタント 耒本 一茂

新たな地域活性化の手法として、「ソーシャルビジネス」が注目されている。ソーシャルビジネスは、社会性と事業性、革新性を兼ね備えた新たなビジネス形態である。従来からのボランティア活動との相違点は、事業性と革新性を加味している点である。利益追求型のベンチャー企業とは、社会的な課題解決を最優先とする点で異なっている。地域活性化という観点では、特区制度を活用した地域の産業育成による経済活性化や、地域特有のアイドルやキャラクター、グルメを活用したブランディング、プロモーション戦略などとも一線を画す。


ソーシャルビジネスを評価する上で重要なポイントは、事業体がどのような課題を解決するのかにある。社会的な課題は時代背景によって大きく変化するが、そうした課題がソーシャルビジネスのテーマに反映される傾向にある。2011年3月に経済産業省より公開された「ソーシャルビジネス・ケースブック」によれば、テーマとして「地域活性化・まちづくり」、「環境」、「人材育成・自立支援」、「教育・子育て」、「社会的支援事業」、「福祉・保健・医療」、「農業」、「国際協力」、「文化・芸術」、「IT・情報化」などが挙げられている。ケースとして紹介される事業体のおよそ3分の1が「地域活性化・まちづくり」に関するテーマとなっており、高い比率を占める。

ソーシャルビジネスのテーマ、概要、構成比についてソーシャルビジネスのテーマ、概要、構成比について
(出所)経済産業省「ソーシャルビジネス・ケースブック」より大和総研作成

今のトレンドは?

2011年3月の東日本大震災以降は、国が主導する形で復興支援型のソーシャルビジネスが進められている。2011年7月29日に、復興施策の一環として「復興支援型地域社会雇用創造事業」の実施が決定。2013年3月まで総事業費32億円を投じて、公募により選ばれた12団体が復興支援型のソーシャルビジネスの立上げ支援に挑んでいる。社会起業インキュベーション事業では創業600社を、社会的企業人材創出インターンシップ事業では2,000人参加を目標に活動を推進している。プロジェクト終了予定の来春にはある程度の成果が見えてこよう。

次のトレンドは何か?

生活保護受給者の増加が財政を圧迫しているが、ソーシャルビジネスで解決することができないだろうか? 厚生労働省の集計結果によれば、2012年8月時点の全国の生活保護受給者は213万人を超え、2012年度の給付額は3兆7千億円に達する見通しである。ソーシャルビジネスで「やりがいのある仕事」と「生活を維持できる雇用」を生み出せれば、解決の糸口が見えるかもしれない。ソーシャルビジネス自体は利益追求型ではないので、地域経済の数値改善に大きく寄与できるかは不明だが、「やりがい」や「雇用」という観点からは成果を得られる可能性は高く、ソーシャルビジネスは今後さらに進化する可能性を秘めているといえよう。

ソーシャルビジネスを実践する人材はどうやって確保したらよいのか?

ソーシャルビジネスの実践には、社会を変えたいという強い意志と活動時間の確保が欠かせない。これらの条件を考慮すると、豊富な知識と経験を持つ定年退職後のシニア層や、結婚や育児でビジネスの第一線を退いてしまった主婦層、斬新なアイデアを持つ若い学生などがメインターゲットになる。これらの人材を勉強会やビジネスコンペに参加させることで鍛え上げるという方法が一般化しつつある。ただし、これではビジネスの最前線で活躍する高い専門性を持った人材が活動に関与しにくい。専門知識を活かしたボランティア「プロボノ」が休日を利用して参画する方法も有効と考えられるが、これ以外に方法はないのか? 多くの人材に活動の機会を与えることができる「新たな仕組みづくり」が急務となっている。

ソーシャルビジネス×ソーシャルメディア=ダブルソーシャルで最適化

事業性を確保するには、様々なツールを活用して効率化を図ることが重要である。宣伝コストを抑えるためにSNSやブログ、口コミサイト、動画投稿サイト、Q&Aサイトなどのソーシャルメディアを最大限に活用するのも成功の秘訣といえよう。すなわち、ソーシャルビジネス×ソーシャルメディア=ダブルソーシャルで最適化を図るのが特に有効である。また、資金調達方法も多様化し、クラウドファンディング(ソーシャルファンディング)といわれる手法も登場している。ソーシャルビジネスの運営手法も常に進化しているので、新たな手法を積極的に活用し効率化を図ることが重要だ。

地方自治体が重要な役割を担う

ソーシャルビジネスの普及拡大では、地方自治体が重要な役割を担う。前述の「ソーシャルビジネス・ケースブック(経済産業省)」によれば、約80%の事業者が地方自治体と協働しており、地方自治体との連携の重要性が伺われる。地方自治体が主導する形で、地域の住民や企業、商工団体、組合、大学・教育機関などとも協働し連携力を高めることが有効である。地域が一つの経営組織であると考えれば、限られた財源をもとに地域活性化戦略を打ち出すことが必要だ。様々な地域活性化手法の中から、地域性を考慮して最適な方法を選定しなくてはならない。ソーシャルビジネスのテーマ選びにおいて選択と集中が功を奏するかもしれない。地域経済、地域資源、財源、補助金や税制優遇などを総合的に提案できるコンサルタントを活用することも選択肢の一つとなろう。

大和総研では、ソーシャルビジネスを活性化させるための教育コンテンツ開発から、多様な地域活性化手法に関する調査・研究、課題を整理して最適なアイデアを創出するための発想法、起業家育成支援プログラムを構築しております。ソーシャルビジネスの事業性、革新性を高めるための支援サービスやインキュベーション施設の設置や改善に関する支援サービスを多数ご用意しております。お気軽にご相談ください。

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