改めて問う、退職給付会計計算業務における内部統制の意義

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今年も桜の季節となり、弊社の顧客に対して『退職給付債務受託計算業務に係る内部統制の整備及び運用状況報告書(以下、18号監査報告書(※1))』を納品する時期となった。


18号監査報告書を顧客に納品するというイベントは、実務を担当している者にとってはある種感慨深いものがある。


これには二つの意味がある。一つは18号監査報告書の金融商品取引法上の重要性の観点であり、もう一つは相当の手間と時間を投入して作り上げた作品としての思い入れの観点である。


一つ目の「金融商品取引法上の重要性の観点」を説明する前に、まず18号監査報告書の概要を説明しておきたい。


金融商品取引法によると、退職給付会計計算業務は、財務報告に対するその重要性の観点から「財務報告に係る内部統制の評価」の対象と考えられており、企業が当該計算業務を外部に委託する場合には、その委託先もその企業の統制の範囲に含まれると解されている。そのため企業には、その委託先の業務プロセスの統制の有効性を確認する義務が生じることになる。


そこで弊社では、退職給付会計計算業務における弊社内の業務プロセスにおいて、内部統制が有効に機能していることを担保するため「日本公認会計士協会監査基準委員会報告書第18号」に基づいた「内部統制の整備及び運用状況の報告書」を2009年3月以降継続して取得し、顧客に納品させて頂くことで内部統制に対応している。


これにより顧客は、納品された18号監査報告書を担保として退職給付会計部分に関する監査を受け、最終的に「内部統制報告書」を内閣総理大臣に提出することで財務報告の信頼性を担保することが可能となるのであり、その意味において18号監査報告書は、企業が行う財務報告の透明性の確保や信頼性の向上、更に間接的にではあるが株式市場の発展に寄与していると言えるのである。


それ故、18号監査報告書を顧客に納品するというイベントを、我々は身の引き締まる思いで迎える訳である。


さて二つ目の「思い入れ」の観点であるが、18号監査報告書は110頁程度のボリュームがあり、その完成までには相当の手間と時間が投入されている。


18号監査報告書は、弊社が記述する部分と監査法人が監査結果に基づいて弊社を評価・記述する部分に大別される。前者には、(1)経営理念や意思決定機関、組織の職務分掌、様々なリスクの評価とそのマネジメント体制、内部監査等の監視活動といった「全社レベルの統制」、(2)システム開発体制やアクセスコントロールといった「IT全般の統制」、(3)計算業務を行うにあたっての業務プロセスや案件毎の工程管理といった「業務手続」が記述され、後者には、監査結果に基づいた評価結果が客観的に記述されることになる。


結果、現時点まで弊社は「弊社の退職給付会計計算業務に係る内部統制上の整備状況が適切に記載され」、「そこに記載されている統制目的を達成するように業務プロセスが設計されており」、「実際の業務において記載の通りに業務が正確かつ網羅的に管理・遵守されている」ことを監査法人から客観的に保証されている。


このようにお墨付きを受けるためには、日頃から内部統制に関する業務プロセスを厳格に運用することは当然であるが、更に毎年様々な業務監査を受ける必要が生じる。つまり相当の手間と時間を要する訳であり、それ故、18号監査報告書を顧客に納品するというイベントは感慨深いものとなるのである。


さてここ最近、退職給付会計基準の改正に絡み、退職給付会計計算業務に関する提案や打合せをさせて頂く機会が増えている。そこで感じるのは、退職給付会計計算を委託する側の内部統制に関する意識や、その意義の浸透度合いには少なからず差があるということである。


ありがたいことに弊社の内部統制に対する取り組みやサービス内容を評価して頂き、弊社をパートナーに選定して頂ける場合もある。このようなケースに共通しているのは「コーポレートガバナンスやリスクマネジメントに対する委託側の意識の高さ」であると感じる。


企業の経営や財務に携わる方々には、改めて内部統制の意義や外部委託業務についても統制の範囲に含まれることがある点にご認識を頂き、とりわけ退職給付会計計算業務については、財務報告に対するその重要性を鑑み、「内部統制」の観点から受託計算機関を選定されることをお勧めしたい。


最後に、「内部統制」について金融庁のホームページより一部抜粋させて頂く。

  • 「内部統制」とは、基本的に、業務の有効性及び効率性、財務報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守並びに資産の保全の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内のすべての者によって遂行されるプロセスをいい、統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング(監視活動)及びIT(情報技術)への対応の6つの基本的要素から構成される。
  • 上場会社は、事業年度ごと(年1回)に、財務報告に係る内部統制(会社における財務報告が法令等に従って適正に作成されるための体制)を会社自らが評価し、評価結果を内部統制報告書として開示しなければならない。
  • 内部統制報告書には公認会計士等の監査証明を受けなければならない。
  • 内部統制報告制度は、投資者等に適正な企業情報が開示されることを確保することを目的として、平成20年4月1日以後開始する事業年度から導入された。

(金融庁HPより一部抜粋)

(※1)18号監査報告書は2013年1月よりISAE3402に切替え予定。

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