確実な人口減少社会の到来に向けて必要な発想の転換

RSS
  • コーポレート・アドバイザリー部 主席コンサルタント 太田 達之助

(1)今後100年強で人口は3分の1に

現在の日本の人口は約1億2,700万人で、ピークの2008年からすでに約100万人減少した。今後の人口予測では、長期的かつ継続的な人口減少が想定されている。2014年の国土交通白書によると、過去100年強で3倍になった日本の人口が、今後100年強で3分の1になると予想されている。

日本の長期人口推移と中位推計

政府は人口減少による消費・経済力の低下が日本の経済社会に対して大きな重荷になるとして、人口減少に歯止めをかけ、2060年に1億人程度の人口を確保するための長期ビジョンを策定した。


長期人口ビジョンでは、基本的視点として、①東京一極集中の是正、②若い世代の就労・結婚・子育ての希望の実現、③地域の特性に即した地域課題の解決、の3つを掲げ、国民の希望の実現に全力を注ぐことが重要としている。しかしながら、これらを実現するための施策には即効性が乏しく、効果が出るのは数年から数十年先になるといわれている。


逆に言えば、今後長期間にわたってほぼ確実に人口減少が続くことになるわけである。そこで過去百年以上続いた人口増加を前提としたシステムとマインドセットを早急に改めることが必要になる。

(2)人口減がもたらす社会構造の変化

今後の大幅な人口減少により、多岐にわたる分野で社会構造の変化がもたらされることになるだろう。


人口が減少すれば、一人当たりの消費量が増加しない限り、国内の消費市場は縮小することになる。単身世帯の増加によって緩和される部分があるにせよ、住宅や耐久消費財への需要が年々減少していくと予想される。食料品や衣料品、各種サービスについても同様である。


労働人口減少に伴う人手不足も顕在化することになろう。すでに終夜営業の外食・小売チェーン店や宅配便事業者などで人手不足が深刻化している。今後見込まれる都市部での高齢者の増加に対応するための介護人材の不足も確実な状況だ。


人口減少により、一人当たりのインフラ維持コストが増加することも見逃せない。高度経済成長期に建設された道路、橋梁、トンネルなどに大規模修繕の必要性が高まっていることに加え、1990年代以降の不況期に拡大した公共事業で建設されたハコモノの維持管理コストも今後増加する見通しである。「団塊の世代」が高齢者となったことによる社会保障給付の増加、生産年齢人口の減少に伴う税収減が予想されるなかで、インフラ維持コスト負担の問題は今後大きな社会問題になる可能性が高い。

(3)発想の転換が必要

国内市場の縮小による企業の国内売上数量の減少は、企業の戦略策定に大きな影響を与えることになる。多くの企業が長期戦略において売上の増加を最優先に掲げているが、国内市場を主戦場とする企業にとって実現のハードルは年々高くなる。無理に売上拡大を追求する企業が増えると、国際的に低い日本企業の利益率がさらに低下することになりかねない。過当競争を厭わない国内市場における量的拡大戦略は、人口減少社会では合理的ではない。量より質で付加価値を高める戦略が必要になる。


消費を喚起するために人手をかけてでも利便性を追求するといった戦略も今後は難しくなるだろう。ヒト余りの社会から、ヒト不足の社会への転換が進むなかで、ユニークで効率的なビジネスモデルをいかに確立するかが戦略策定のキーとなる。


人口増加や市場拡大を前提としたシステムやマインドセットが時代にそぐわないと頭で理解できたとしても、長年続けてきた拡大戦略を転換するのは容易ではない。大胆な発想転換をするために、常識を疑うことから始めるべきかもしれない。


発想の転換が必要な時代だからこそ、様々な経営戦略のノウハウを有する大和総研にご相談いただければ幸いである。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

関連のサービス