拡大する市民風車等と今後のファイナンス・モデル

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◆地域に貢献する市民風車の増加

最近「市民風車」という言葉を良く耳にする。市民風車とは、通常、NPO法人が企画立案し、市民が出資して建設された風車を指す。先駆的な役割を果している北海道グリーンファンド(NPO法人)(※1)によると、市民風車は、2001年9月に建設された第一号の「はまかぜちゃん」 (※2)から2008年1月に建設された「かなみちゃん」(※3)まで、合計11機が建設されている。総投資額はおよそ20億円で、地域住民またはNPO会員等からの寄付ならびに市民による投資によっている。また、市民風車ではないが、類似の市民活動として、おひさまエネルギーファンド株式会社(※4)が設定した「温暖化防止おひさまファンド」(※5)がある。これも興味深い事例である。販売用資料によると、同ファンドの投資対象は太陽光発電事業、省エネルギー事業およびグリーン熱供給事業等である。当該ファンドからの投資総額は4億6200万円が予定されている。市民風車またはおひさまファンドは、「営利事業モデル」の考案により、大型の資金調達を可能にしたという意味で画期的と評価されている。

◆営利事業モデルに基づき活動するNPO活動の今後の課題

他方、懸念材料がない訳ではない。NPO活動が活発になることは誠に好ましいことであり大いに期待されるべきことであるが、他方において、これらの事業に投資するのは一般市民であり、市民の保護(投資家保護)は如何に為すべきかという課題がそれである。投資収益の配分が予定されている以上、彼らは市民であると同時に投資家としての顔を持つ。この観点から、NPO法人が主導するこの種の営利事業は、今後大型化するにつれて、一層健全に経営され(ガバナンスの問題)、且つ、大量に調達された投資資金が適正に投資・管理(利益相反取引、投資決定基準、資金の分別管理、トランスペアレンシー(透明性)の確保など)されることが重要な課題となろう。これらの課題は、いずれも、金融商品取引法の下でファンド・ビジネスを行う不動産投資ファンド会社あるいはベンチャーキャピタル会社が抱える課題に似ている。

◆NPO活動の一層の発展のためのファイナンス・モデル

そこで、私案であるが、NPO法人による営利事業型プロジェクトを更に拡大・進化させるために、以下の検討をしてはどうであろう。第一に、NPO法人という特殊な法的地位に基づく活動(NPO法人+市民+行政の関係)に限定することなく、民間企業との協働を前提として間口の広いアプローチ(NPO法人+市民+行政+民間企業の関係強化)を取る。換言すると、第四セクター、第五セクターおよびジョイントセクター(※6)を一層志向する。第二に、工夫に工夫を重ねてたどり着いた現在のファイナンス・モデル(匿名組合方式)ではあるが、これから決別して、新しい「公募モデル」にシフトする。第三に、証券取引所に特別の市場、例えば、「NPOプロジェクト市場」を創設して、プロジェクトの持分または株式を上場して、セカンダリーマーケットを整備する。これにより、NPO法人の活動は大型化が可能となる同時に、民間の上場企業と同様に現行関係法令の適用を受けることになり、前述の課題への対応が可能となる。第四に、地域プロジェクトの性格および内容をより精査・分析し、合理的なリスク・シェアリングを検討し、投資家が自らのプロジェクトリスク許容度に応じて投資できるように金融商品を考案する。NPO関係者等の間でこれらが検討され、NPO活動が今後共広がることを期待している。

(※1)北海道グリーンファンドは、現在の市民風車のビジネスモデルを考案する上で重要な役割を担った。

(※2)事業主体は株式会社市民風車発電で、1機(990kw)を建設。

(※3)事業主体は北海道グリーンファンドで、1機(1,650kw)を建設。

(※4)複数のNPO法人が共同出資して平成16年に設立した会社。資本金は1000万円。第二種金融商品取引業者登録を行っている。当社の出資者には、環境エネルギー政策研究所が含まれる。当該研究所は、北海道グリーンファンドと一緒に市民風車ビジネスモデルの構築に尽力した。

(※5)販売用資料「出資のご案内」によると、募集が終了したのは2008年12月26日。

(※6)第四セクターとは、行政+市民(NPO)の協働事業。第五セクターとは、民間企業+市民(NPO)の協働事業。ジョイントセクターとは、行政+民間企業+市民(NPO)の三社の共同事業の意。

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