2012年03月28日
最近『キュレーション』という言葉を見かける機会が多くなった。キュレーションとは情報を収集、選別、再編集し、新しい価値を持たせて共有する、と解される。キュレーションとはゼロから何かを作り上げることではない。すでに存在している情報を目的に沿って収集・整理し、それを再編集することで新しい価値を加えることである。今回は多くの企業で停滞感を感じている『目標管理制度』にスポットを当て、キュレーションの力で再構築する試みと今後の可能性を探ってみた。
停滞する目標管理制度をキュレーションすると
目標管理制度は多くの企業が導入している。一方で目標の方向性に統一感が無い、容易なレベルの目標を設定している、目標の内容が曖昧である等々問題を抱えている。そこでバランスト・スコアカード(以下BSC)とデータ・ベース(以下DB)という2つの道具を使い、キュレーションによる問題解決を試みた(BSCとDBの説明は省略する)。
目標設定は全社目標→部門目標→個人目標に順次展開されるのが理想だ。ところが往々にして中間の部門目標が曖昧である。そのために、社員は抽象的に表現された全社目標からいきなり個人目標を設定する事態となる。そこで前述のような諸問題が発生する。もし目標設定のネタ(情報)の提供があれば目標設定はスムーズに進み、かつ切れ味の良い目標設定ができるはずだ。さっそくキュレーションの発想を取り入れた目標管理の再構築について解説を進めることにする。
第一に全社目標にそったBSCを作り上げる。BSCは従来から部門毎に使われている業績管理指標や定性目標などの情報を収集、選別、再編集し、それを全社最適にまとめ直す。その結果、全社で重点的に取り組む領域が明確になる。ここに新しい価値が生まれ、重点テーマの共有が可能になる。図表の例では4つの領域を設定しているが、実際は4つにこだわる必要は無い。第二に完成したBSCから担当の部門に求められる重点テーマを選び出す(図表の太枠の部分)。重点テーマはこれからその部門が取組む情報を提供してくれる。重点テーマを明示することで取り組むべき方向性を部門で共有でき、かつ方向性のズレを解消することが可能になる。第三に目標のDBを作成しておき、それを活用することである。このDBにはBSCの4つの領域に対応した模範的な目標のサンプルをライブラリーとしてストックしておく。優れた目標の事例集をイメージしていただくとよいだろう。前述のBSC並びに目標のDBの導入時は社内にある、過去に使われた指標や目標の情報を活用することになる。その際に経験が豊富な外部専門機関を活用すればより早く、優れたアウトプットを得られるはずだ。
図表 目標設定におけるBSCとDB
※図表は大和総研にて作成
社員はBSCが示す重点テーマを共有・意識し、さらに目標のDBのライブラリーを参考にして自らの年度目標を設定することになる。目標のDBの内容を手がかりにすることで、具体的かつ効果的な目標設定が容易になるという仕掛けである。BSCとDBというツールを活用し、部門及び社員個人の目標設定の各段階に必要な情報をキュレーションすることで、優れた目標を短時間で設定することが可能となる。
キュレーションの今後の可能性
コンサルティングの現場では実際に本モデルを活用し、運用を開始する事例が進行中である。目標管理制度が社内で再認識された、上司と部下の目標設定面接がスムーズに運用されるようになった、目標設定までの時間が短縮された、目標の内容がより具体的・挑戦的になった等々の成果を生み出しつつある。
社内に分散している、あるいは埋もれているノウハウや成功事例の情報をキュレーションし、新しい価値を創出する。これがきっかけとなり社員の能力開発や技能の継承、日常業務の生産性向上、グローバル化する製品開発プロセスの改善、といった社内の多様なシーンへの発展的な展開が期待されるところである。
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