2010年07月07日
2010年6月30日より改正育児介護休業法が施行された。男女ともに子育て等をしながら働き続けるための雇用環境の整備に主眼が置かれ、改正項目は4つに大別できる。
- 育児休業の特例を設け、父親の育児参加を促す
- 育児期間中の就業時間等の制約を企業に課す
- 介護休暇を新設し、仕事と介護の両立支援
- 企業への制裁措置の導入
詳しい解説は他に委ねるが、仕事と育児の両立に悩む母親たちの意見を反映した改正であり、利用者側としては一定の評価ができる。
一方、企業側は、従業員の育児や介護への支援スタンスに関係なく支援体制を整えなくてはならず、少なからず負担感を抱いていると感じる。上記の4大項目のうち、企業に影響が大きいのは、「就業時間等の制約を企業に課す」である。改正前は「所定外労働の免除」もしくは「短時間勤務制度(1日6時間)」を用意すればよかったが、改正後はいずれも整備することが義務化された。勤怠管理のしやすさから「所定外労働の免除」を選んだ企業が多かったこともあり、「短時間勤務制度」の導入に戸惑いが強いようだ。
人事担当者から寄せられる「短時間勤務制度」に関する代表的な相談は、(1)始業・終業時間の具体的な設定方法、(2)残業を指示できないのか、(3)短時間勤務の従業員の給与や賞与を減額してもいいか、の3つに集約できる。いずれも導入時点の制度面の課題であるが、今後運用が進むにつれ以下のような課題が生じると予想される。
(1)短時間勤務者にどのような仕事を与えるべきか
責任のある仕事を任せにくく、軽作業ばかりを与えてしまう。本人は、仕事に面白味を感じられず、また今後のキャリアに不安を抱く。
(2)短時間勤務者の人事考課をどうすべきか
周囲と相対比較すると短時間勤務者を高く評価しにくい。一方、短時間勤務者は「効率的に仕事をしているのに、十分な評価を受けられない」という不満が募る。
(3)短時間勤務者以外の従業員の不公平感にどう対応すべきか
短時間勤務者の業務を課せられた従業員や、異なる価値観をもつ従業員が「あの人ばかりいい思いをしている」という感情を持つ。
短時間勤務者は「制度を利用できること」だけで、周囲や会社に対する感謝の念を抱き続けることは難しい。育児と両立して働くからには、責任ある充実した仕事をしたいし、評価されたい思いも募る。一方、周囲の従業員も負荷が長期間にわたれば不満もたまる。放置すれば制度の弊害ばかりが大きくなるだろう。
有効な打ち手は何だろうか。対策のヒントをご紹介する。それは、(1)適切な業務配分と評価、(2)キャリア形成支援、(3)細やかなコミュニケーションの実践である。いずれも現場の管理職に頼る部分が大きく、また簡単に見えて難易度が高い。人事部は丸投げをせず、マネジメントスキル研修の提供、社内外の成功事例の共有、使い勝手の良い制度への改定といった後方支援をすることが強く求められる。
上記の対策は、短時間勤務制度のみならず、人事全般の課題の処方箋ともなる。両立支援に対して消極的な企業であっても、法改正の対応は避けられず、しかも表層的な対応では組織がぎくしゃくしかねない。人事の懸案事項に着手する好機と捉えて、法改正、特に短時間勤務制度と対峙することをお勧めしたい。
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