ホワイトカラーの労働生産性向上に処方箋はあるのか

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  • マネジメントコンサルティング部 主任コンサルタント 柳澤 大貴

1.ホワイトカラーの労働生産性向上は必須の課題

労働時間の短縮は今やオールジャパンの課題である。特に時間外労働時間の削減は待ったなしの経営課題と言えよう。これまでも「ノー残業day」、「上司が定時に退社する」、「残業時間の上限を設ける」、「残業が美徳の社風を変えよう」等々の試みは行われてきた。効果を出している部分もあるが、全体としての成果には至っていないのが現状だ。直近では「早朝出社」という手法も取り入れられているようだ。早朝は社外からの電話もなく仕事に集中しやすい。逆に17:00以降の残業はエンドレスになりがちだ。そこに一石を投じようという試みである。以上の背景を所与のものとして、本稿ではホワイトカラーの労働生産性の向上策はあるかを探っていく。

2.生産現場は成果を上げている

生産現場に目を向けると、生産計画や作業標準、品質基準が明確になっており、定時で完了できる仕組みが出来上がっている。もちろん売上増による増産があれば残業が発生するが、原則は定時で完了する体制が整っている。この成功体験をホワイトカラーに適用すれば上手くいくはずと目論んだが、これが実際はそう簡単ではない。ホワイトカラーの仕事を大きく分けると2つに仕分けができる。1つは単純で反復処理をする仕事である。伝票を処理する、日々の入力をする等の仕事が該当する。この領域は仕事の内容が見える化しやすく、標準化もやりやすい。従って生産現場のように、時間管理が成立する。IT化も進みこの領域の生産性は向上している。遅々として改善が進まない仕事がもう1つの領域である。例えば製品開発や企画、営業の仕事だ。生産管理の手法が全く使えないわけではないが根本を変えるところまでは至っていない。

3.コンピテンシーモデルは救世主になるか

次に登場する手法がコンピテンシーモデルである。社内にいる仕事の第一人者の知恵を拝借しようとするアプローチで、簡単に解説すると次の通りである。人事部のスタッフあるいは外部のコンサルタントがその仕事の第一人者に面談し、経験や行動特性、保有しているスキルなどを聞き出す。それを体系的にまとめあげて、基準とする。その基準を社員に公開し、スキルアップを行い、行動特性を真似ることで成功者に近づくという仕掛けである。机上の理論では第一人者に近づくことで生産性も向上するというロジックである。コンサルティングのフィールド経験からいうと、この手法はかなり多くの企業で採用されているが、期待したほどの成果が上がっていないのが実情だ。そこでこの手法をブラッシュアップしてホワイトカラーの労働生産性の向上に使えるか否かを検証してみよう。


結論から言うと課題は2つある。1つは第一人者の選定、1つは面談者の力量である。社内の第一人者というと文字通りのその分野で頂点の人材が選ばれる。ところが意外なことに、頂点にいる人はそもそも優秀であり、自分がなぜ成功したかを体系立てて把握していない場合が多い。多くの社員が躓いているプロセスも、その人はなんなくこなしている。質問を繰り返すと「なぜできないのか、私には理解できない」となってしまうのである。実は、頂点にいる人よりも苦労や経験を踏んで、他人の悩みを理解できる成功者を選ぶことがポイントなのである。ちょうど上位10~20%に入るくらいの人材が適任者である場合が多い。ここをベースにして、第一人者のノウハウをちりばめると多くの人が活用できる基準に近づくことができる。

4.可能性は残されている

次に面談者の力量である。面談をして、第一人者のノウハウを引き出す。それを社員が活用できるように体系化する能力である。ところが質問の詰めが浅くて、核心のノウハウを引き出せない場合がある。普通の面談者は「さすがですね、そういう方法があるのですね」で終わってしまう。ところが優れた面談者は「それでもうまくいかないときにはどうしますか?」というような質問を出すことができる。この質問で多くの社員に役立つノウハウが引き出されるのである。対象者の選定と面談者の力量を改善することで、コンピテンシーモデルには活用の余地が残されていると言えるだろう。


社員20人の職場がある。1人当たりの月間残業時間が40時間とすると、合計は800時間。5名がコンピテンシーモデルを活用して、残業時間をゼロにしたならば、残業時間は600時間へと25%削減できる。さらに成功した5名が残りの15名を支援すれば、数か月後には「残業時間ゼロ」は願望ではなく、期待値に変わることであろう。

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