企業において「女性管理職」の増加を阻む二つの壁

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  • コンサルティング企画部 主席コンサルタント 廣川 明子

「女性活躍」の法案(※1)にて企業に女性管理職比率の開示を求めることは、女性の可能性をより一層広げるものとして評価ができよう。ただし、副作用として「女性管理職」比率を安易に競う風潮が生じることを危惧している。それは、中途半端な覚悟で高い数値目標に挑んでは現場の混乱と女性の困惑を招き、徒労に終わる可能性があるからである。


「初」の女性管理職を登用するということと、「数を増やす」ことは全く別である。「初」であれば、会社側の都合で「反対意見を抑えられるほどの高い学歴と実力」を備え、かつ「滅私奉公を厭わず男性のように働く」女性を選抜すればよかった。しかし、「数を増やす」段階では、現場のニーズや社員の多様な価値観に対し、企業側が適応することが求められる。


成り行きで女性管理職の数を増やす企業がぶつかる壁は、「逆差別」と「短時間勤務」である。壁を乗り越えられず、「女性管理職を増やすのは当社では無理だ」とあきらめてしまうことは非常にもったいない。以下に、少し複雑な二つの壁を解きほぐし、乗り越えるためのヒントをご紹介したい。


1.「逆差別」の壁


「実力もないのに女性だから抜擢された」というのは、昔から女性管理職の登用時にささやかれがちな噂である。少し前までは、実力があるにも関わらず、ひがみ・やっかみで謗りを受け悩む女性が多かったが、数を増やす中では管理職として実力不足の女性が男性に代わって選ばれる逆差別が危惧される。


多くの企業で「採用時は女性の方が優秀なのに、管理職候補に挙がる優秀者は男性ばかり」という話をお聞きする。これは、管理職候補の選定方法に男女差別の問題があるのではなく、過去10年間以上にわたる業務を通じた育成に男女差が生じていたことが背景にあると分析する。


管理職候補生としての女性の採用数が増えたのが2000年代前半である。当時はまだ男女別の業務配分の意識を引きずっており、女性は営業などのビジネスの本流に関わる職種ではなく、企画・事務職種や専門職種に任用する傾向があったように感じる。いずれもその分野のスペシャリストとしての実力がつく一方、管理職に求められる交渉力や胆力、マネジメントの力はやや付きにくい(事務系職種であっても実力ある管理職はもちろん多くおられる)。また、成長には効果的だが肉体的・精神的負荷が高くなりがちな「修羅場経験」を女性にさせることをためらう男性上司も多く、数年後の実力の差が開いてしまっていると思われる。


ところが、採用から管理職登用までのこのような事態を把握しきれない経営陣から「採用の男女比に、管理職登用の男女比を合わせるべきだ」「同業他社水準への引き上げを!」との大号令がかかってしまうと、是正すべき育成の格差問題が放置され、管理職を担うには力不足の女性を登用してしまうことが懸念される。


公正で公平な登用基準を設け、数合わせで女性に下駄をはかせることがない運用をすることは言うまでもないが、それだけでは足りない。昨今、配置の性差は解消されつつあると感じるが、男性管理職からは「部下に管理職候補の女性が配属されたが、どう育てていいか悩む」という話をまだ多くお聞きする。引き続き現場管理職の指導や支援は求められよう。また、過渡期には女性管理職候補生が不足しているスキルを補う研修プログラムも必要となろう。


2.「短時間勤務(時短)」の壁


多くの企業では、管理職に昇進するのは早くて30歳代前半であり、出産~育児期と重複する。家庭内の家事や育児の負担は女性に偏っており、家事分担のために時短勤務を選択する女性の比率は7割を超えるという(※2)。よって、女性管理職の数を増やすには、短時間勤務(※3)を選択しても、周囲も本人もストレスもなく業務が遂行できる環境整備が必要となる。数が増えると個別対応では立ちゆかなくなるため、具体的には職種や職場が以下のような条件を満たすことが求められよう。

  • 遅くとも17時までには業務を終えることができる(保育園の通常のお迎え時間に間に合う)
  • 社内にいなくとも業務が滞らない(子供の病気等で急に休んでも、自宅で作業や決裁、打ち合わせができる)
  • 結果で評価される(時間に制約があっても正当に評価される)
  • 育児期にある女性のみならず、全ての社員がこのような働き方を選択できる(男性管理職や子供のいない女性、未婚の若手にも公平なしくみである)

実現には、社内ルールやシステム、人事制度(評価や昇格ルールなど)の見直しのみならず、企業によってはビジネスモデルの変更を迫られるかもしれない。例えば、小売業では売上高を増やすために営業時間が長くなる傾向があり、管理職女性を増やす取り組みと矛盾を起こしがちである。対応としては、営業時間帯に影響されにくい本部系の職場・職種にて女性の登用を進め、難易度の高い店舗に徐々に広げることを勧めたい。過渡期の社内格差については賛否両論あるだろうが、「全員できないならば、やらない」のではなく、段階を踏んで進める割り切りも必要となる。特に店舗においては本人や周囲の意見を丁寧に吸い上げながら最適解を探ることが肝要で、営業時間の見直しもその一つの解となるかもしれない。時短の壁を超えるには、自社のビジネスモデルと時短制度を高次でバランスさせることが求められるだろう。


まとめ


女性管理職の数を増やすことに覚悟をもって挑み、コストや労力を投じる利点は何だろうか。女性管理職を積極登用する方針に転換をした経営者の方々からは以下のような理由をお聞きしている。

  • 男性が中心の既存ビジネスの延長では業績が伸び悩んでおり、(男性にはない)女性の発想で状況を打開したい
  • 男性だけでは優秀な人材が不足する。性別を問わず良い人材を採用して処遇したい

二つの大きな壁を乗り越えた先に見える景色は、男性だけによる意思決定や業務遂行では解決できなかった経営課題が解消されて企業の価値が高まっている状態だろう。「女性管理職はわが社に必要はない。無理だ。」と断じ続けた企業との間には大きな差が開いているはずだ。現状を見てあきらめたり、目先の数字を追ったりせず、遠い将来の果実を想像して女性管理職を増やす一歩を踏み出していただきたい。


(※1)「女性の職業生活における活躍の推進に関する法案」平成26年11月5日時点で国会審議中。女性管理職比率について、大企業(常用雇用者301人以上)では開示が義務づけられ、中小企業では努力義務とされている。
(※2)「両立支援のための柔軟な働き方研究会報告」21世紀職業財団(平成21年3月)。なお、短時間勤務制度の導入が義務付けられる前の調査であるため、現在はさらに高まっていると推測される。
(※3)管理職への短時間勤務の適用は法律で義務付けられてはいないが、企業が独自に適用することは可能である。

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