グローバル人材育成 忘れがちな3つの視点

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  • 小林 英一

グローバル経営の重要性が叫ばれる昨今、筆者がコンサルティングを手掛ける人事関連分野においても、グローバル人事制度の構築、グローバル人材マネジメント、企業理念の海外拠点への浸透などに取り組む企業が増加している。中でも、グローバル展開の推進役となるグローバル人材の育成を重要課題に掲げる企業は多いのではなかろうか。そのグローバル人材育成において、意外と忘れがちな以下の3つの視点を指摘したい(※1)

(1)赴任前にマネジメント教育を!!

グローバル人材の育成は、国内での研修プログラムと実際の海外滞在経験(研修・留学・トレイニーを含む)の2本柱で行われ、そこではいずれも異文化対応能力の強化に主眼が置かれている。これは当然であり重要なことだが、海外赴任時にはそれだけでは十分でない場合もある。


日本人が海外拠点に駐在する場合、日本国内よりも1~2レベル上のポジションに着任するケースが多く、日本で役職なしの社員が現地で課長レベルに配属されるケースもある。この場合、仮に異文化対応能力を十分身に付けていたとしても、それまで部下を持ったことがない当該社員は部下のマネジメント方法や人事評価方法が分からず、本人が困るばかりか現地の組織運営にも支障をきたす。これは異文化対応とは別次元の問題だ。


現地でマネジメント職を担わせる場合は、できれば国内で既にマネジメント経験を積んでいる社員を派遣するのが望ましい。人員上の都合でそれが難しいようであれば、最低限、赴任前にマネジメントのいろはを研修等で学ばせてから送り出す必要があるだろう。


実は、国内における管理職に対してもマネジメント研修、人事評価者研修を実施している企業は非常に多い。それだけ、マネジメントというのは重要であり、また、一定のスキル・ノウハウを意識的に身に付ける必要があるということだ。現地ではさらに異文化対応という新たなハードルが加わる。そこに十分なエネルギーを割けるよう、赴任前に一定のマネジメント能力を身に付けておくことが望まれる。

(2)リテンションにも気配りを!!

グローバル人材の育成に各社熱が入る一方で、忘れてはならないのは優秀なグローバル人材のリテンションである。せっかく時間とお金をかけて育成した貴重なグローバル人材が流出してしまっては会社にとって大きな損失・痛手となる。


そうならないためには金銭的報酬ももちろん大事であるが、それには各社限界があるであろうし、また、それだけでリテンションが図れるものでもない。むしろ非金銭的な部分が重要となり、赴任前後も含め各フェーズにおいて、それぞれ適切に対応する必要がある。


まず、赴任前においては、将来の海外駐在が約束されてから実際の赴任までに時間をあまり空けないことである。研修受講等の準備で本人のやる気・行く気が高まっているのに実際の赴任機会が与えられないと、いきおい、直ぐに赴任チャンスが与えられる他社に転職などということにもなりかねない。海外ポスト数の制限や派遣順番待ちなどで、どうしても期間が空いてしまう場合は、赴任時・赴任後の明確なキャリアプランを提示して本人のモチベーションを維持するなどの配慮が必要となろう。


次に赴任中であるが、海外駐在員の場合、赴任先地域のスペシャリストとして高く評価され、同地域でより魅力的な職場があれば転職を考える社員がいても不思議ではない。逆に、他社から声が掛かることもあるだろう。これに対しては、帰任後も含めた明確なキャリアプランの提示、企業理念の浸透などを通じて自社への帰属意識を高めておくことが有効であると思われる。


さらに、本人の思いや考えを絶えず把握し、それらしい兆候が見られた時は早めに策を講じることである。本社と距離の離れた海外駐在員とのコンタクト機会はどうしても少なくなってしまう。意識的にコミュニケーションの密度をあげ、会社と本人との精神的な距離を縮めておくことが肝要である。


最後に赴任後であるが、特に本人が希望する場合、赴任中に培った経験・知識が活かせる業務をアサインすることが大切だ。これは、本人のモチベーション維持のみならず、人材の効果的活用という面でも有効なはずである。それまでとあまり関連性のない業務に就かせて本人がやる気を失い、赴任中の経験を活かすべく社外に職を求めるということはぜひとも避けたい。

(3)国内組もグローバル化を!!

グローバル人材育成というと「海外拠点で活躍できる人材の育成」というコンテクストで使われ、主に優秀な海外駐在員の育成を指していわれることが多いように思われる。もちろん、海外市場の最前線で仕事ができる人材の育成が必要なのはいうまでもないが、それだけでグローバル経営が上手く行くというものではない。


彼・彼女等の活躍には、日本側との連携およびサポートが不可欠である。事業面での日本側との調整も必要であろうし、人事部門等の本社管理部門のサポートも欠かせない。そのような国内組が海外の事情に精通していない場合どうなるであろうか。恐らく、海外駐在員との調整・サポートにかかわる質とスピードは大きく悪化するであろう(※2)。海外駐在を経験された方の中には、現地の事情・状況をいくら本社側に説明しても理解してもらえず、孤立感を味わった方も多いのではなかろうか。これではせっかく育成した優秀な駐在員のパフォーマンスも十分に発揮されない。


そうならないためにも、国内組のマインドセットもできる限りグローバル化する必要がある。海外赴任者向けの異文化対応プログラムを受講させることも一方法であるし、特に海外出張等も少ない管理部門においては、核となる人材を育成目的で海外拠点に駐在させ、自ら異文化経験を積ませることも有用である。これらがコスト面で難しいということであれば、帰任者が現地で蓄積した知識・ノウハウを社内に伝播させる仕組み(研修会の開催、帰任者の戦略的人員配置など)構築などの工夫が有効と思われる。


以上、グローバル人材育成において忘れがちな3点を見てきたが、育成するグローバル人材が最大限に、そして長期的にパフォーマンスを発揮できるような環境・仕組みづくりが欠かせない。

(※1)グローバル人材を国籍を問わず育成する傾向も見られるが、ここでは現時点でまだ主流である日本人の育成に関する内容とする
(※2)他にも、より大きな問題として、グローバル経営の戦略策定面における問題などもあるが、ここでは扱わない

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