改正労働基準法対応の現場から

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  • コンサルティング企画部 主席コンサルタント 廣川 明子

2010年4月1日に改正労働基準法が施行される。昨年末より、多くのお客様からご相談をいただく。正直なところ、改正が決まった頃はここまで反響があるとは予想できなかった。


今回の改正の概要は、「時間外労働が60時間を超えた場合、現行の割増率25%を50%に引き上げる」ことを義務化するものである(中小企業では当面、適用を猶予される)。長時間残業の削減が進んでいる大企業が、対応に苦慮するとは考えにくい。


それでは、なぜ人事担当者は悩んでしまうのか?大きな理由は、今回の法改正対応は、「時間外労働の削減にどう取り組むか」という判断を迫られることにある。

企業の取り組みは、現状の時間外労働の長さによって以下の2つに分類できる。

「防戦一方タイプ」

  • 長時間残業が恒常化しており、問題だとわかっていても削減が進まない。
  • 人件費の上昇を抑えつつ、必要最低限の対応で済ませたい。

「積極改善タイプ」

  • 長時間残業の削減は対応済みであるが、さらなる削減に取り組んでいる。
  • 努力義務とされる項目に対しても、対応ができないか前向きに検討している。

以下に、それぞれのタイプの企業からしばしば寄せられるご相談と、小職の私見を紹介したい。


「防戦一方タイプ」からのご相談
「(法の範囲内で)時間外労働の換算方法を見直して、時間外手当を抑えることはできないだろうか」


この場合は、「長時間労働のリスクをどのようにお考えですか?」と逆に質問をする。行政通達によると、過労死と業務の関係性を判断する基準として、発症前1ヶ月間に月100時間を超える時間外労働、または発症前2~6ヶ月間を平均して月80時間を超える時間外労働があった場合を挙げている。目先の時間外手当の削減にのみ目を向けることは、大きな労務リスクを抱え続けることにつながる。「防戦一方タイプ」は原点に返り、時間外手当の削減ではなく時間外労働の削減に注力すべきである。


「積極改善タイプ」からのご相談
「他社では、努力義務の項目に対して、どのように取り組んでいるだろうか」


「努力義務」とは、規制を導入する場合に直ちに義務化せず、努力義務として一定の猶予期間を設けることである。今回の改正労基法では、「月45時間以上の時間外労働させる場合は、割増率を25%以上とすること」等が努力義務として定められている。この例において、割増率を25%とする割合は半数程度で最も多く、次いで割増率を30%程度としている実態がうかがえる。しかし、この点は企業の体力に応じて無理のない水準を検討すべきであろう。無理に背伸びをして割増率を引き上げた場合、その後の引き下げは「就業規則の不利益変更」に該当する可能性が高く、実施には困難を伴うからである。


そして、いずれのタイプにも共通する質問は、「どうしたら時間外労働の削減ができるだろうか」というものである。時間外労働の削減は、法改正対応の肝であり最重要項目である。しかし、大乗段に構えずに、続けられる小さな取組みから始めることをお勧めしたい。時間外労働は、既存の枠組みの中のちょっとした工夫により削減することが可能である。ほんの一部であるが、一例を挙げておこう。

  • 人事評価の要素に「業務効率性」を加えて、残業時間の削減率を人事評価の対象とする
  • 残業申請フォームに、具体的な残業理由を書く欄を設ける
  • 残業承認者の役職位を引き上げる
  • 19時を過ぎたら消灯する…

等々である。また、小さな取組みであっても、経営陣と現場のマネージャーが先頭に立つこと、そして継続することが肝要である。


今回の改正労働基準法は、時間外労働の割増率に目が行きがちであるが、実は時間外労働削減を厳しく迫るものである。就業規則の改定などの表層的な対応にとどまらず、かつ背伸びしすぎない、自社にマッチした策を講じる事が大切となろう。

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