健康保険組合「解散」が最良の選択か?

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先日、西濃運輸および京樽の健康保険組合(以下「健保組合」)の解散が新聞報道等で大きく取り上げられ、社会保障審議会医療保険部会でも解散の経緯について報告された模様である。2008年度に入って9月1日までに解散した健保組合は13組合。2009年4月までの解散の検討を行っている健保組合も少なからずあるようだ。はたしてこの数は多いといえるのだろうか。2000年4月以降では累計で約200の健保組合が解散している。1年平均で約24組合であることからすれば、今年が突出しているわけではない。解散理由についての詳細は不明であるが、今年に限れば2008年4月にスタートした高齢者医療制度における前期高齢者納付金および後期高齢者支援金による財政悪化予想が大きな要因ではないかと思われる。


健保組合は2008年9月1日時点で1500組合。加入者は被保険者本人が約1500万人強、被扶養者が約1500万人、合わせて3050万人が加入しており、1組合平均で約2万人の加入者となる。労使で負担している保険料率は平均7.3%(必ずしも労使折半ではない。)であり、政府管掌健康保険(以下「政管健保」)の8.2%と比較すると負担は小さい。かつ各組合において独自の給付や事業があり、人間ドックの費用補助、保養所など相対的に恵まれている組合が多い。しかしながら、他方、政管健保と同率以上の保険料率の組合も344組合ある。健康保険組合連合会が2008年度の全国の健保組合の予算を集計したところ、高齢者医療のための支出額が全保険料収入の46.5%も占め、約9割の健保組合が赤字となるとの見込みである。


これに対応するため、東京電力、セブン&アイ・ホールディングス、NTTなどの大手企業健保組合において、政管健保の水準を下回るものの保険料率を引き上げる動きも出てきている。また、10月からトヨタ自動車、NECの健保組合では、医療費の適正化を図ることを目指して、薬の診療報酬のレセプト審査・支払いについて社会保険支払基金を経由せずに直接行う予定である。これら一連の動きは、健保組合財政の健全化にむけて、健保組合およびその母体企業が実施可能な施策に限界はあるものの、今後、新規採用が困難になることが予想される雇用環境下、企業に働く従業員の福利厚生の一環として健康管理の充実、モティベーションの向上等が不可欠と考える母体企業および健保組合等の努力の姿といえよう。


健保組合が解散した場合、その加入者は政管健保に移ることになる。しかし、政管健保の財政状況も厳しく、保険料率の引き上げも確実視されている。さらに2008年10月からは運営者が社会保険庁から「全国健康保険協会」に変わり、2009年度以降は都道府県別に保険料率が異なることもあり、企業内での事務作業増加等への影響や従業員間の負担格差も懸念される。


麻生新内閣において高齢者医療制度の見直しが政策課題に掲げられ、厚生労働相直属の「高齢者医療制度に関する検討会」が新設された。そのような状況の中、拙速に「解散」の選択をすることが最良であるか、定性面だけでなく、健保組合財政の将来予測等定量的な側面も踏まえて、改めて母体企業、労働組合、健保組合一体となって検討すべき「人事戦略上」の最重要課題ではないだろうか。

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