東南アジアの遠い国、近い国

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  • コンサルティング第一部 主任コンサルタント 中川 葉子

日本にとって、東南アジア諸国の重要性はますます高まりつつある。総人口約6億人を擁する巨大市場としての魅力、高い経済成長率への期待、安全保障上のパートナーとしての関係強化、文化的親和性など、様々な要因を挙げることができるが、その前提として、日本からの地理的な近さが大きな魅力の一つとなっていると言えよう。


企業の視点で見ると、例えば日本からモノを輸出する場合、近い国であるほど輸送コストを抑えることができ輸送時間も短く済むため、有利であると考えることができる。また、社員が日本と進出先の拠点を往来するための移動時間も抑えることができるし、欧米諸国と比較すると時差も小さくコミュニケーションを取りやすい。また同様に、個人が数日間の海外旅行を企画する場合にも、移動時間が短くて運賃が安く、時差も小さい国が有力な候補となろう。


ところで東南アジア諸国という括りの中でも、当然のことながら、日本からの地理的な距離は様々である。例えば東南アジア諸国の首都のうち、東京から最も近いマニラ(フィリピン)は約4,000km、最も遠いジャカルタ(インドネシア)は約5,800kmである。しかし、実際に東南アジアを訪れてみると、地図上で見る以上に遠い国があることに気付いた。


2013年の秋、初めてミャンマーのヤンゴンを訪れる機会があった。早朝に自宅を出発して成田空港に到着。まずは6時間半かけてバンコク・スワンナプーム空港(タイ)へ飛び、空港内で2時間程度費やした後、バンコクからヤンゴンへ約1時間かけて移動した。ヤンゴン国際空港から市内までの道路も渋滞しており、ホテルに着いたのは日本時間の22時頃であった。パソコンや資料などを背負いながら丸一日移動に費やしたせいか、夜には疲労が溜まっており、やはりミャンマーは遠い国だと感じた。


この出張の当時、東京-ヤンゴン間の直行便は就航が再開していたものの曜日が限られており、仕事のスケジュール上、残念ながら利用することができなかった。しかし、ほどなくして直行便が毎日就航することとなり、午前中に成田空港を出発すれば、約7時間で現地に到着することが可能となった。このフライトを利用すれば、シンガポールやバンコクと同等の移動時間でヤンゴンを訪れることもできる。海外旅行先の有力候補にもなりうるのではと感じた。


図表1では、東南アジア諸国の主要都市と東京(成田・羽田)を結ぶ直行便の一週間当たりの便数、最短の所要時間(乗り継ぎの場合を含む)、そして日本との時差を比較した。シンガポール、バンコク、マニラの3都市は便数が多く、移動時間も比較的短い。これらの空港はアジアのハブ空港としての役割を担っているため、二国間の渡航者数の動向と必ずしも一致しないが、日本からはアクセスしやすい国であると考えられる。

図表1:日本(東京)と東南アジア諸国を結ぶフライトの就航状況(往路)

他方で、ビエンチャン(ラオス)、バンダルスリブガワン(ブルネイ)、プノンペン(カンボジア)の3都市については、他の都市での乗り継ぎが必要であり、移動時間が長い。ヤンゴン(ミャンマー)についても、直行便の就航は開始されたものの、依然として便数が少なく、決してアクセスが良いとは言えない。


各航空会社は新規路線の就航を決定するにあたり、競合他社の状況、自社の他路線への影響(乗り継ぎ等)、そして就航先の周辺地域の人口や産業、観光など、旅客数の動向に影響を与えうる様々な要因を分析し、採算性を検討する。一般的には、両国の結びつきが強いほど渡航者数が増え、フライト数も増加する傾向にあると考えることができよう。

図表2:アセアン諸国と日本の関係

図表2は東南アジア諸国と日本に関わる主要なデータをまとめたものである。シンガポールやタイが全般的に上位を占め、日本との強い結びつきを窺うことができる一方で、ミャンマー、カンボジア、ブルネイ、ラオスは低い順位に留まっている。


なお、ミャンマーでは2011年に発足した現政権の経済改革路線の成果が具現化し始め、日本を含めた外国企業が進出する環境が急速に整いつつある。人口6,600万人の市場、安価な労働力、そして経済成長への期待を受けて、今後も日本企業からの関心の高まりは続くことが予想される。このような背景のもと、昨年の東京-ヤンゴン路線の就航が決定し、日本との距離が近づくこととなった。今後は両国間の渡航者数の増加に伴って、経済以外の分野でも交流が深まることが期待される。


航空便の増加は一例であるものの、ミャンマーの他にもカンボジア、ブルネイ、ラオスなど、これまで関係が比較的薄く、遠いと感じていた国々についても、今後日本と東南アジア地域全体との結びつきが強まるほど、より近い国に感じることになるかもしれない。

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