消費市場としてのミャンマー進出 ~その魅力と課題点(後編)~

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  • マネジメントコンサルティング部 主任コンサルタント 芦田 栄一郎

消費市場としてのミャンマー進出 ~その魅力と課題点(前編)~』ではミャンマーの消費市場が有望な投資先として期待される5つの背景について整理した。本稿では、ミャンマーの消費市場をターゲットとして進出を検討する場合の主な課題点について整理する。

◆消費市場として進出検討する場合の5つの主な課題点

  1. 「新外国投資法」の運用
    外国投資法が2012年11月に改正された(以下、「新外国投資法」という)。外国投資法が1988年に制定されて以来、初めての法改正である。また2013年1月には「新外国投資法」の運用ガイドラインとして施行細則が公表された。しかし、法律や規定に曖昧な箇所や齟齬(そご)があり、適用する際には、念入りに詳細条件を読み込むことが求められる。
    投資許可の可否についても依然、あいまいな部分が多い。例えば、従来、外資に禁じられていた貿易の可否は不明である。卸売業については外国投資が認められたが、販社設立の実質的な可否については、今後の制度運用を注視する必要がある。販売ライセンスの取得などについては、複数の省庁からの許可が必要な場合もあるので、最終的には必要書類のモレがないように1つ1つ確認をしながら業務を進める必要がある。
  2. 通関・国内物流
    原材料や製品を輸入する際の課題の一つは、リードタイムの短縮である。日本や中国、タイなどから、原材料や製品をミャンマーの港へ輸送できたとしても、税関での検査や輸入業務に時間がかかっている。また、ミャンマー国内で、製品を損傷なく輸送できるかどうかも課題である。食品であればコールドチェーンの確立や、温度管理など衛生面の配慮も必要であり、自社のビジネスに適合した物流品質の確保が重要となろう。
  3. 決済手段
    ミャンマーにおいて、個人が商品を購入する際には現金決済が利用されることが多い。クレジットカード決済や銀行振り込みなどの多様な決済手段が整備されていないことが、販売でのチャンスロスにつながる可能性があるばかりか、カタログ販売やインターネット販売などを展開する場合の障壁となっている。
  4. 模倣品対策
    現在、ミャンマーでは近代的な知的財産権に関する体系だった法律は、検討はされているが、整備されていない。メーカーにとって知的財産権は生命線でもあり、保護の保証がない場合、ビジネスリスクを抱えながら業務を行うことになる。また、仮に法律が制定されたとしても、運用の実態が伴わないと効果がないため、各企業は、法の適用や運用について、しばらくモニタリングをする必要があろう。
  5. 幹部人材の確保
    ミャンマーの若くて豊富な労働力は魅力であるが、それは、製造業において単純作業を行う一般工員を採用する場合である。本稿のテーマである販売に注目した場合、マネジメントレベルの業務を遂行できる幹部人材の確保が難しいことが指摘できる。背景としては、1988年から2011年までの軍事政権の下で、公的な教育制度が崩壊しかけたことがあげられる。民主化デモの拠点となった多くの大学が、長期間にわたって実質閉鎖され、教育水準も低下した。その上、学生は、大学卒業後もビジネスを経験する機会が少なく、幹部人材が育つメカニズムが衰退したことが大きいと考えている。その結果、高い教育水準やビジネスの経験を積むことを望む人材の一部は、タイやシンガポールなどの海外へ流出してしまっている。マネジメントレベルの人材の確保が難しい状況が続くようであるならば、外国から幹部人材を配属させるか、自ら幹部候補を選抜、育成するしかないのが実情である。また、優秀な人材が少ないため、そうした人材は奪い合いになっている。リテンション(囲い込み)策も課題であろう。

以上、ミャンマーの消費市場をターゲットとする際の現状の課題について考察した。このように、ミャンマーにおける課題は諸々ある一方、日本サイドにも取り組むべき問題がある。


著者がミャンマーに出張した際、現地ミャンマー人に日本製品についての意見を求めた。「日本製品は丈夫で故障も少なく、多機能でデザインもよい。ただし、買いたくとも価格が高いので手が出ず、韓国製や中国製の安い製品のもので我慢している。お金持ちになったら、日本製品を買いたい」という声を何度も聞いた。日系企業のメーカーや販売担当者とディスカッションする機会があったので、その件について触れると「我が社でも当然そのことは認識しているが、我が社の看板を背負って市場に商品を送り出す以上、品質を落としてまで売ろうとは思わない」との回答が多かった。


「品質を落とす」という言葉に抵抗感があるならば「スペックを絞り込んでシンプルかつ高品質な製品をミャンマーの実情に見合う価格で販売する」という発想の転換も必要ではないだろうか。現地に適合した日本製品をマーケティングするという視点でもう一度市場を眺めれば、ミャンマーマーケット突破・攻略のヒントを見つけることができるかもしれない。

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