中国の高齢者介護市場の現状と展望

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国連の統計によれば、中国では65歳以上の高齢者数が2010年段階で1.1億人と、総人口の8%を占める。これが25年には約2億人で14%、50年には3.3億人で25%にまで高まる見通しである。また、中国は「一人っ子」も1億人を超えており、最初の「一人っ子」世代は中青年段階に入り、現在の中国社会で一般的な「421」式家庭を営んでいる。これらの家庭では、老人介護と子育てという二重のプレッシャーに直面しており、手不足が原因で、専門的な介護施設と住宅区の介護サービスへの需要が日々増えつつある。一方、高齢者介護市場は、インフラ、人材、保険サービス等の面で問題を抱えており、日々増え続ける介護に対する需要を十分満たせていない現状がある。半面、この巨大な潜在市場を視野に入れた具体的な動きも見られるようになってきた。


中国では、高齢者向け介護施設が極端に不足している。例えば、国務院が昨年末に発行した「2011~2015社会介護サービスシステム構築計画」(以下「計画」と略す)の統計によると、2010年末時点で介護用ベッド数は約314.9万床あるが、60歳以上の高齢者総数の僅か1.77%に過ぎない。「高齢者総数の約5%の介護用ベッド数が必要」とされる国際標準には大きく及ばない。民政部は、社会介護サービスの発展についての指標システムをつくり、第十二次五ヵ年計画を実施している間の各地の社会介護サービスの発展目標、任務の数量化基準の参考にと具体的な指標を示した。そのほか、民政部は先頭に立ち、介護施設のレベル評価システム、高齢者の入院と介護サービス需要に関する評価システムを作った。「計画」では、政府と各地方の財政資金、宝くじ厚生費、社会資金を組み合わせ、資金調達のシステムを作るとしている。公立ながら民営、委託管理、サービス購買などの方法で、社会組織が運営する公益介護施設をサポートするとしている。民政部によると、「第十二次五ヵ年計画」の期間、民政部と地方が留保する福祉宝くじ厚生費の最低50%を、集中的に社会介護サービスシステムの建設に投入するという。


次に、養老介護に係わる職員数が需要に対し大きく不足している。民政部の統計によると、本来全国1,000万人の養老介護専門人員が必要であるが、資格を持つ従業員は僅か3万人強にとどまっている。また、養老介護職員の多くは、40歳、50歳を超え、失業者または素養に乏しい出稼ぎ労働者である(図1参照)。これは給料の安さ、労働時間の長さ、仕事の大変さ、また当該業種に対する社会的偏見等さまざまな理由が考えられる。こうした現状に対し、「計画」では、養老介護職員の就業認定試験制度を導入し、5年以内に有資格者の就業を全面的に実現させるとする。同時に介護サービスの研修体制を整え、介護施設への就業によって就職問題を解決できるようにすることをサポートするという。 そのほか、民政部は養老院に専門業者を派遣する。全国老齢事務所は中華敬老ボランティアなどに、今後の五年間全国で高齢人口の10%にあたる2100万人の敬老ボランティアを育成することを依頼している。


高齢者向け社会保険サービスが脆弱な点も問題である。現在、養老保険は都市部における約4,000万人の高齢者のみを適用対象としている。農村部の状況はさらにひどく、高齢者の80%が養老保険の適用対象外という状況である。これに対し「計画」では、高齢者の介護に対する支払能力を向上させようと、現在、保険監督管理委員会といくつかの保険会社との間で、来年から農村部での高齢者養老保険を施行することも協議しているという。

図1養老介護職員の学歴
図1養老介護職員の学歴
(出所)民政部の統計より大和総研(上海)作成

中国の養老介護市場は、他の産業分野に比べて大きく立ち遅れているため、今後の市場拡大に各方面から大きな期待が寄せられている。今後の養老介護市場は、「計画」で示されているように、新たな重点産業として順調な育成を図るという目的とともに、内需拡大に資するという意義もあり、中国の経済政策全体の重要なポイントに位置づけられることになるだろう。


最後に、養老介護市場が拡大するには、中国政府の力だけでなく、海外のノウハウを取り入れることも必要になるだろう。日本は中国に先んじて高齢化の進展を経験しており、養老介護分野において多くのノウハウも蓄積している。例えば、日本の介護専門各社は、施設、食事および入浴等の時刻を画一的に決めずに、利用者ごとに設定できるようにする等、高齢者の利便性を高めようと取り組んでいるところが多い。横たわる利用者を起こす際には不自由な手足に負担がかかりにくい体勢を介護者が取るなどのノウハウも蓄積している。尖閣諸島をめぐる問題で日中関係は一時的に悪化しているが、介護分野では日本企業のサービスを求める声が強い。中国の養老介護市場はまさに日本企業にとって本領を発揮する余地が大きい分野といえるだろう。

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