中国越境EC市場 データで語る最新動向

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  • マネジメントコンサルティング部 主任コンサルタント 芦田 栄一郎

消費者個人がインターネット経由で海外の商品を直接購入する「越境EC(電子商取引)」において、中国人による市場規模が急拡大している。いわゆる中国人の「爆買い」がインターネット上でも行われているわけだが、本稿では調査データからわかる現状を整理して、将来展望を示してみたい。


中国越境ECの現状については経済産業省「平成28年度 電子商取引に関する市場調査」(※1)に詳しいが、まずは中国EC市場の世界的な位置付けを確認しよう。すなわち、米eMarketer社の各国別BtoC-EC(以下、単にEC)市場調査によれば、2016年における中国国内のEC売上高は総額9,276億米ドル(対前年比39.9%増)と世界一、それも突出した規模となっている。また、成長の面でも市場規模上位5か国の中で最も伸びが大きい(図表1参照)。中国は7億2,000万人もの世界一のインターネット人口を擁する国である(2015年末)。普及率、つまり全人口に占めるインターネット人口はまだ約52.3%だから、今後も引き続き増加が期待できるポテンシャルの高いマーケットということができる。

BtoC-EC市場規模 上位5か国の状況(2015・2016年) (単位:億米ドル)

そして、中国人消費者は国内でのインターネットショッピングのみならず、越境ECを積極的に利用している実態が指摘できる。日本の場合、ECを利用する消費者のうち越境EC経験者(過去1年間)は僅か5%にとどまるのに対して、中国EC利用者では越境EC経験のある者は26%にのぼる。中国ではEC消費者のうち4人に1人は越境ECの利用経験がある計算で、抵抗なく越境ECが受け入れられているさまがよくわかる(図表2参照)。

日本・中国各国における越境EC経験者の割合(過去1年間)

この中国越境EC市場規模を、日本・米国という2つの購入元国とのクロスセクションで整理すると、中国消費者が日本から購入する商品総額(2016年)は前年比約30%の伸びを見せ、およそ1兆円の水準に達したもようだ(1兆366億円)。同じく2016年における米国からの購入総額は1兆1,371億円(前年比34.7%増)と前年同様に日本を少々上回る。以上に対して、日・米消費者の中国からの購入額は、米国で4,259億円とそれなりの規模である一方、日本は226億円と大きく下回る水準にとどまっている。

日本・米国・中国各国間における越境EC市場規模(その1:マトリクス)
日本・米国・中国各国間における越境EC市場規模(その2:図解版)

中国人消費者の越境EC購買力は今後どのように推移するのであろうか。結論としては中国越境ECの成長力は今後も高水準であることが見込まれており、中国越境EC市場は現状で高いポテンシャルを有していると言えよう(図表5参照)。


高い成長が見込まれている背景には、①インターネット人口が今後も増加を続けること、②中国人の名目所得額の伸びが見込まれること、③物流網、国際的な資金決済、安心・安全な取引場といった越境ECインフラの整備が進むこと、などが理由として挙げられる。中国は、2016年と2020年を比較すると約1.84倍の市場規模にまで拡大することが見込まれている。

中国における越境EC市場予測

以上のように中国越境ECを取り巻く環境のうち、主にマクロ的な視点で市場の現状と今後の市場予測について概観した。この他、中国越境ECにおける「売れ筋商品」、「今後、成長が期待される商品カテゴリ」、「中国消費者の国別購入先ランキング」、「中国人が越境ECを行う理由」、「インバウンドと越境ECの相関性」、「税制改正動向」など各種の重要な個別テーマも散見されるが、これらについては稿を改めて取り上げ、あらためて日本企業のビジネスチャンスと課題について考察してみたい。


(※1)経済産業省「平成28年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」は当社(株)大和総研が受託して実施したものである。

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