2013年03月14日
近年のわが国のODA予算額は、財政悪化を背景に、減少の一途を辿っている。2012年度の一般会計ODA当初予算額は5,612億円。13年連続の減少となり、ピークの1997年と比較すると52%減の水準となっている。
一方で他のDAC諸国(※1)に目を転じると、2000年に国連にて採択された「ミレニアム開発目標」の1つ、ODA支出の「GNI(※2)比0.7%の水準までの引き上げ」達成に向けて、特に欧米諸国では増加傾向にある(図表1)。特に2001年の米国同時多発テロが貧困に起因するとの見地から、米国は10年間で3倍程度まで増加している。結果、1993~2000年までODA実績で1位だった日本は2007年以降5位に転落、対GNI比率を比較しても下位に留まっている(図表2)。
わが国の財政状況に鑑みると、来年度以降もODA予算額が急増する可能性は高くないであろう。一方で、国際貢献に消極的なイメージが定着することは、わが国にとっても好ましくない。特に東南アジア地域では日本が最大のドナーとなっている国が多数存在し、より一層強固な政治的、経済的な協力関係を築く上で、ODAは大きなポイントになっていると考えられるからである。

(上位5カ国は青棒で表示)

これまでもODAはわが国と東南アジア諸国を結ぶ重要な架け橋の一つとなってきた。わが国のODAは敗戦後間もない1950年代から始まり、戦後復興期の国際社会で対外関係を構築していくための外交政策上の重要な役割を担ってきた。特に戦後賠償が起源となっているアジア地域に対する援助に重きを置いており、CLMV諸国(※3)に対する援助の直近10年間の合計額を見ると、カンボジアの約3割、ラオスの約4割、ミャンマーの3割弱、ベトナムの約5割が、わが国からの援助となっている(出所:世界銀行)。尚、ミャンマーについては、米・欧諸国による経済制裁が発動する2000年代初頭までは、わが国は約7割の最大援助国であった。
ODAは単なる資金や食糧の援助に留まらず、防災やインフラ整備(港、幹線道路、空港等)、人材育成など、内容は多岐にわたる。多面的な援助を通じて二国間の交流を継続してきたことが、CLMV諸国がASEANの中でも特に親日的である一因であると考えられる。また、わが国のODA実施の判断基準となる援助実施の4原則(※4)が、対象国の平和の維持や人権問題の改善、民主化や市場経済の導入等を促す場合もある。このように、東南アジア諸国へのODAは、対象国との経済的な結びつきや地域の安定を望むわが国にとっても歴史的に重要な役割を担ってきたといえる。
最近のODAに関わる事例として、ミャンマーに対する円借款再開について取り上げたい。現テイン・セイン政権は2011年3月の発足以降、アウン・サン・スーチー氏をはじめとする民主化勢力や少数民族との対話など、民主化に積極的に取り組む姿勢を見せてきた。欧米諸国では対ミャンマー経済制裁を緩和する動きが見られるようになり、2012年11月には現職アメリカ大統領としては初めてオバマ氏がミャンマーを訪問した。わが国も2012年4月の両国首脳会談にて、これまでのミャンマーの民主化、社会経済改革努力を踏まえ、延滞債務問題の解消を通じて同国の国際社会への復帰を後押しするとの立場を表明した。2013年1月には日本への債務のうち、①2003年3月末以前に返済期日が到来した債務(元利合計1,989億円)はJBICによる「ブリッジローン」を活用して解消した上で、同額の長期円借款を新規に供与、②2003年4月以降に返済期日が到来した債務(元利合計1,274億円)については免除手続を再開する措置を実施している。①で新規に供与された「社会経済開発支援借款」は、ミャンマーの各種改革と経済成長の基盤強化を支援するプログラム・ローンであり、両国共同でモニタリングを継続する予定である。
同月の世界銀行やアジア開発銀行、パリクラブのミャンマー延滞債務問題の解消を受けて、わが国政府は今年度中に500億円規模の円借款を新規に実行する見込みである。これはヤンゴン近郊に建設予定の「ティラワ経済特区」周辺のインフラ開発、ヤンゴン都市圏の火力発電所の緊急改修、14の地方自治体の生活基盤改善を通じた貧困削減に当てられる。
一方で日系企業に目を転じると、ミャンマーへの関心はこれまでになく高まっているものの、現地に生産拠点を移すなど、実際に進出を果たしている企業は未だ少数である。日系企業のミャンマー進出の発表件数をまとめた日本貿易機構のレポートによると、現時点では進出支援、金融、商社が先行しており、対して製造業で新規進出を発表している企業は数社に留まっている。日系企業がミャンマーでビジネスを展開する上で、法制度(貿易、投資関連)や各種インフラ(電力、工業団地など)が未整備であり、進出に伴うリスクに二の足を踏んでいるとみられる。このような状況下、わが国政府による援助の再開は、今後の民間企業進出の呼び水となることが期待される。
日系企業のニーズをもとに彼らが安心してビジネスを行うことができる環境を整え、現地の経済成長に資するような分野に積極的に援助を行い、結果として二国間の結びつきが強くなれば、ミャンマーにとっても日本にとってもメリットが大きい。ミャンマーやアジア地域に限らず、このように官民の歩調を合わせた援助の事例を広くアピールすることは、削減され続けるわが国ODAの今後を国民が考える上で重要な判断材料となるであろう。
(※1)Development Assistance Committee、開発援助委員会。現在はOECD加盟国全34カ国のうちの23カ国にEUを加えた24カ国から構成されている。
(※2)Gross National Income、国民総所得。国民がある一定期間に生み出した付加価値(海外からも含む)の合計。
(※3)カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム。ASEAN後発加盟国と呼ばれる4カ国。
(※4)政府開発援助大綱に明記されている。具体的には(1)環境と開発を両立させる、(2)軍事的用途及び国際紛争助長への使用を回避する、(3)テロや大量破壊兵器の拡散を防止するなど国際平和と安定を維持・強化するとともに、開発途上国はその国内資源を自国の経済社会開発のために適正かつ優先的に配分すべきであるとの観点から、開発途上国の軍事支出、大量破壊兵器・ミサイルの開発・製造、武器の輸出入などの動向に十分注意を払う、(4)開発途上国における民主化の促進、市場経済導入の努力並びに基本的人権及び自由の保障状況に十分注意を払う。
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