人民元相場上昇が外汇黄牛を直撃、弱まる‘単辺的’な‘看空’‘看多’
2011年まで常に上昇圧力がかかり続けてきた人民元相場は、2012年3月頃から一転して元安局面となり、人民銀行が設定する中心レートからの変動幅±1%の元安下限まで下がる(跌停)局面も見られたが、9月頃から再び急上昇し、元高上限にたびたび張り付き(漲停)、年末にかけ最高値を更新している。上海の外灘付近には、なお外国為替(外汇)の闇両替人(黄牛、元来は中国でもっとも一般的な牛を指すが、チケット等を闇市場で売るいわゆる‘ダフ屋’を意味することが多い)が散見されるが、9月以降の急激な人民元相場の上昇で、銀行より有利な相場を顧客に提示して人民元を購入し外貨を売ることが難しくなって、外汇黄牛が商売に苦慮しているという(2012年10月21日付中財網)。
人民元相場急上昇の背景は、占尽天時地利人和だとする声がある(11月2日付戦略観察)。由来は、孟子の「天時不如地利、地利不如人和(天のもたらす幸運は地勢の有利には及ばず、地勢の有利は人心の和に及ばない)」という、人心の和の重要性を説いた兵法から来ているが、ここでは、様々な要因があって一言では説明できない(言い換えれば、よくわからない)ということだろう。米国を始めとする先進国が、金利をさらに低下させる余地がない中での一層の金融の量的緩和QE(量化寛松)という非伝統的金融政策(非常規貨幣政策)を進める一方、人民銀行は金利を下げて流動性を調節するという政策手段(利率杠杆、金利を梃子、レバーにする)ではなく、いわゆるリバースレポ(逆回购)方式で資金供給を行ってきたため、内外金利差が維持され、高金利通貨である人民元に資金が集まったことが大きいとの見方が多い(2012年10月30日付経済参考報等)。
社会科学院金融研究所の研究員によれば、中国政府の立場からすると、為替政策上重視される観点は3つある。第一は、言うまでもなく輸出への影響、第二は、特にグローバル金融危機以降、国際的にホットマネー(熱銭)が国際金融市場に風や波を引き起こす(興風作浪)不安定要因になっている状況下での金融のシステミックリスク(系統性金融風険)への影響、第三は国際政治上の交渉ゲーム(国際政治談判的博弈)、特に米国との関係をどう考えるかという観点である(2012年6月中国農村金融)。9月以降のやや急激な元相場上昇の説明要因として、中国外でもよく指摘されるのは、G20や米国大統領選といった政治日程だが、中国側からすると、そうした政治日程を控えたタイミングで、中国当局が人民元相場の上昇を容認する傾向が見られるのは、米国から、人民元相場について‘無責任にあれやこれや言われる’(説三道四)ことを阻止するためということになる。人民銀行の立場からすると、永遠のトライアングル(永恒三角形)、すなわち国際経済学で有名な国際金融のトリレンマに直面する中で、中央銀行として最終的に選択するのは金融政策の独立性と資本の自由な移動、したがって為替相場はより弾力化することが望ましい方向となる(上記、社会科学院金融研究所研究員、および中国市場関係者、11月28日付国際金融報)。人民銀行が、中国政府の中で改革推進派と呼ばれることが多いゆえんであろう。
ただ、このところの人民元相場上昇は短期的なもので、次第に上昇余地(昇値空間)はなくなりつつあるとの見方が、中国内では支配的だ(2012年12月7日コラム)。市場関係者は、人民元の短期的な上昇を上漲、長期的な上昇傾向を昇値と表して用語を使い分けており、10月以降の急上昇は上漲と表現されるべきものだとの指摘もある(11月27日付経済参考報)。また以前のように、投資家が市場で一方的(単辺的)な相場上昇期待(看多)あるいは下落期待(看空)の下で、人民元を買い進む(做多)あるいは逆に売り進む(做空)といった市場行為をとることが少なくなってきている。そのため外貨を保有している者は、これまで以上に相場の双方向への変動を期待することになり、当面、現在の相場で急いで外貨を市場に出そうとしない。そうなると当面、外汇黄牛は手持ち外貨が不足気味となり、しかもその対人民元相場は安いという二重苦にさらされることになるというわけである。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
地域で影響を増す外国人の社会増減
コロナ禍後の地域の人口動態
2025年07月24日
-
生成AI利活用に関する技術・サービスの動向
基盤モデルなどの最新動向、および全体像・自社事例を解説
2024年07月01日
-
コロナ禍を踏まえた人口動向
出生動向と若年女性人口の移動から見た地方圏人口の今後
2024年03月28日
関連のサービス
最新のレポート・コラム
-
1-3月期ユーロ圏GDP 市場予想に反して減速
かろうじてプラス成長も、原油高の悪影響本格化の前から成長停滞
2026年05月01日
-
米GDP 前期比年率+2.0%と加速
2026年1-3月期米GDP:AI関連投資がけん引
2026年05月01日
-
令和8年金商法等改正法案 スタートアップ企業への資金供給の促進に関する改正案
有価証券届出書の提出免除基準の引き上げや特定投資家私募の対象拡大
2026年04月30日
-
令和8年金商法等改正法案 サステナビリティ情報の開示・保証に関する改正案
セーフハーバー・ルールや第三者保証に関する規定を整備
2026年04月30日
-
内部留保課税は資本市場にとって「善」か「悪」か
2026年05月01日
よく読まれているコンサルティングレポート
-
アクティビスト投資家の近時動向(2026年4月)
「変質」しつつあるアクティビスト投資家。「対話」から「交渉」に。
2026年04月09日
-
非財務情報は企業価値に寄与するか
非財務情報(人的資本・ガバナンス)を用いた企業価値への影響に係る定量的検証
2026年04月03日
-
コングロマリット・ディスカウントの再考察
~日本企業の定量分析から読み解く、人的資本経営と企業価値の新関係~
2026年03月25日
-
グローバル基準での資本効率格付け
株主・エクイティ投資家目線でみた新指標での評価
2026年03月31日
-
直近のMBOによる株式非公開化トレンド
事例比較による公正性担保措置の実務ポイント
2026年01月27日
アクティビスト投資家の近時動向(2026年4月)
「変質」しつつあるアクティビスト投資家。「対話」から「交渉」に。
2026年04月09日
非財務情報は企業価値に寄与するか
非財務情報(人的資本・ガバナンス)を用いた企業価値への影響に係る定量的検証
2026年04月03日
コングロマリット・ディスカウントの再考察
~日本企業の定量分析から読み解く、人的資本経営と企業価値の新関係~
2026年03月25日
グローバル基準での資本効率格付け
株主・エクイティ投資家目線でみた新指標での評価
2026年03月31日
直近のMBOによる株式非公開化トレンド
事例比較による公正性担保措置の実務ポイント
2026年01月27日

