サマリー
◆本稿では、日本経済の回復確度と、景気拡大の可能性を占う上で死活的に重要なテーマである「中国経済回復の背景」と「米国逆イールドの影響」について分析・整理を行う。
◆【中国経済回復の虚実(出張報告)】「全人代」開幕期間に当たる3月11日から15日にかけて「北京」・「雄安新区」・「青島」を視察し、現地の有識者たちと意見交換を行った。今回のリサーチトリップで得られた知見は以下の通りである。まず2018年の中国経済失速の主因は米中摩擦ではない。中国独自の政策変更によって内需が失速している最中に、関税の打撃が加わった、とみるべきだ。内需失速の背景は①理財商品への規制強化、②インフラ事業の絞り込み、③個人間消費者金融への規制導入、④自動車購入税の減免停止、などに求められる。このうち①②については、政治的な事情もあり、2019年に入って緩和方向へと大きく転換され、中国経済は回復に転じた。
◆ただし、中国国内の在庫水準が高いことから、中国経済の回復が日本企業に恩恵を及ぼすまでには相応のタイムラグを必要とするだろう。また、上述した③④が残存することから、消費の回復が遅れる公算が大きい。従って、日本企業の中でも、中国の消費に依存する分野での回復は当面、相対的に鈍いペースにとどまる可能性が高い。
◆【逆イールドが目前に迫るFRBの最終手段】3月下旬に米国債の長期金利が短期金利を下回る「逆イールド」が一時的に示現した。同現象の直接の背景はFRBの「ハト化(保有資産圧縮政策の早期停止公表)」である。しかし、景気循環から見ても、労働市場における構造問題(負の履歴効果の存在)から見ても、長期金利の顕著な上昇を自然体で期待することは当面難しそうだ。そしてイールドカーブが極端に平坦な状況が続けば、クレジットの拡大サイクルの反転と、それに伴う景気後退が発生する可能性が高まる。
◆「逆イールド」が目前に迫る中でもなお、FRBは米国企業の債務レバレッジを抑制する目的で、追加的な金融引締めを企図するだろう。しかし上述した要因から「政策金利」の引き上げは当面難しい。「量」の政策も、放棄してしまった。残された唯一の手段は「質」に関する部分-保有資産(米国債)の中心年限短期化による、イールドカーブのスティープ化-となるだろう。この市場調節が機能している間に限り、「逆イールド⇒景気後退シナリオ」が回避されることになる。
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