サマリー
◆「2025年の崖」とは、経済産業省が2018年に公表したレポートにて提示された概念である。これは、複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムが残存した場合、2025年以降に大規模な経済損失が発生する可能性を示している。こうした既存システムは、新しいビジネスモデルを創出するDX推進の妨げにもなることから、2025年までのシステム刷新が求められている。
◆地方公共団体情報システムでは、各地方公共団体が開発・カスタマイズを行っているため、維持管理や制度改正時の改修等における個別対応が負担となっている。そこで、政府は20業務を標準化の対象として定め、2025年度末を期限に地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化を推進している。
◆これに向けて、現在は制度所管省庁が地方公共団体や関係する団体、事業者とともに、業務フローやデータ要件の標準仕様を作成している。しかし、こうした標準化自体が時間のかかる作業であり、標準仕様書の改訂が続いている。既に期限内の移行が困難な見込みのシステムも報告されており、移行において整理するべき課題は多い。
◆さらに、標準仕様を満たすシステム構成や、移行方法等も重要である。先行事業による検証において、地方公共団体が単独かつ現行システムのアプリケーションを活かす形でガバメントクラウドへ移行では、ランニングコストが増加する例も報告されている。現在もシステム移行に関する様々な観点からの検証が続けられており、実際のシステム移行時にこれらの検証結果をどこまで活かすことが出来るのかが注目される。
◆地方公共団体情報システムの取り組みから示唆されるのは、「2025年の崖」を乗り越えDXを推進するためには、組織全体で業務を見直し、デジタル技術を活用しやすい形でのシステム刷新が必要であるということだ。「2025年の崖」は日本全体の問題である。地方公共団体のこうした取り組みが、企業におけるシステム刷新において良いモデルとなることを期待したい。
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