技能実習制度に潜む人権リスク

業務上の安全・衛生基準等の違反解消や、政府の対策強化が必要

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2021年12月21日

  • 矢澤 朋子

サマリー

◆日本の技能実習制度が「強制労働」にあたると米国から指摘を受けている。本稿では、労働基準監督の状況などを確認し、技能実習制度が強制労働と指摘される要因を検証する。さらに実習生が抱える債務や制度に係る問題についても取り上げ、技能実習制度に潜む人権リスクに日本が今後どう対応すべきかを探る。

◆技能実習生実習実施事業場における違反率(監督実施事業場数に占める違反事業場数)は定期監督等適用事業場のそれと比べて、全体として大差はない。ただし、種類別で見ると、技能実習生実習実施事業場では業務上の安全基準・衛生基準、賃金や残業代の不払などの違反の割合が高い。これらは強制労働の代表的な条件に合致する。また、技能実習生は不法な仲介手数料や保証金などを含む多額の債務を負っている場合があり、債務労働に陥る可能性がある。加えて、職を離れる自由がないことが、技能実習制度が強制労働であると指摘される要因であろう。

◆日本政府は17年に「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」を施行し、監理団体や実習実施者に対する監督や技能実習生保護の強化、送出国との二国間取決めによる不適切な送出機関の排除、実習先変更支援などの対策を行ってきた。今後は、これらの対策をより強化するとともに、実習実施者や監理団体、実習生に対する継続的かつ定期的な研修を行うことも重要となろう。

◆技能実習制度の「実習生の受入れ先の変更を認めない」という原則に関しては、今後慎重に対応を考える必要があろう。技能実習制度の本来の目的は実習を通じた技術移転であるが、実情は人手不足を補う貴重な労働力となっている。目的と実情の乖離をなくし、技能実習生に対する不適切な対応を排除することが必要と考える。

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