サマリー
◆日本の技能実習制度が「強制労働」にあたると米国から指摘を受けている。本稿では、労働基準監督の状況などを確認し、技能実習制度が強制労働と指摘される要因を検証する。さらに実習生が抱える債務や制度に係る問題についても取り上げ、技能実習制度に潜む人権リスクに日本が今後どう対応すべきかを探る。
◆技能実習生実習実施事業場における違反率(監督実施事業場数に占める違反事業場数)は定期監督等適用事業場のそれと比べて、全体として大差はない。ただし、種類別で見ると、技能実習生実習実施事業場では業務上の安全基準・衛生基準、賃金や残業代の不払などの違反の割合が高い。これらは強制労働の代表的な条件に合致する。また、技能実習生は不法な仲介手数料や保証金などを含む多額の債務を負っている場合があり、債務労働に陥る可能性がある。加えて、職を離れる自由がないことが、技能実習制度が強制労働であると指摘される要因であろう。
◆日本政府は17年に「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」を施行し、監理団体や実習実施者に対する監督や技能実習生保護の強化、送出国との二国間取決めによる不適切な送出機関の排除、実習先変更支援などの対策を行ってきた。今後は、これらの対策をより強化するとともに、実習実施者や監理団体、実習生に対する継続的かつ定期的な研修を行うことも重要となろう。
◆技能実習制度の「実習生の受入れ先の変更を認めない」という原則に関しては、今後慎重に対応を考える必要があろう。技能実習制度の本来の目的は実習を通じた技術移転であるが、実情は人手不足を補う貴重な労働力となっている。目的と実情の乖離をなくし、技能実習生に対する不適切な対応を排除することが必要と考える。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
「責任ある積極財政」下で進む長期金利上昇・円安の背景と財政・金融政策への示唆
「低水準の政策金利見通し」「供給制約下での財政拡張」が円安促進
2025年12月11日
-
2025年12月日銀短観予想
輸出不振や原材料高で製造業の業況判断DI(最近)は悪化を見込む
2025年12月10日
-
2025年7-9月期GDP(2次速報)
設備投資などが減少し、実質GDPは前期比年率▲2.3%に下方修正
2025年12月08日
最新のレポート・コラム
-
中国:来年も消費拡大を最優先だが前途多難
さらに強化した積極的な財政政策・適度に緩和的な金融政策を継続
2025年12月12日
-
「責任ある積極財政」下で進む長期金利上昇・円安の背景と財政・金融政策への示唆
「低水準の政策金利見通し」「供給制約下での財政拡張」が円安促進
2025年12月11日
-
FOMC 3会合連続で0.25%の利下げを決定
2026年は合計0.25%ptの利下げ予想も、不確定要素は多い
2025年12月11日
-
大和のクリプトナビ No.5 2025年10月以降のビットコイン急落の背景
ピークから最大35%下落。相場を支えた主体の買い鈍化等が背景か
2025年12月10日
-
12月金融政策決定会合の注目点
2025年12月12日
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
-
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
-
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日

