サマリー
◆2012年秋以降、為替レートが円安方向へと大きく転じたが、その後もしばらくの間は、企業の海外生産移転が抑制されるような兆しは見られなかった。しかし、2014年後半になって、複数の企業が海外生産拠点の一部を国内に戻す計画を明らかにしたことなどから、最近は、製造業の「国内回帰」に対する注目度が高まっている。
◆歴史的な関係を見ると、円高(円安)が進行してから2~3年程度経過すると、海外売上高比率と海外設備投資比率はともに上昇(低下)する傾向にある。最近の製造業の国内回帰の動きに関しては、実質実効為替レートと交易条件の乖離幅が縮小していることも追い風となっている。
◆海外設備投資比率を、①海外生産比率、②実質実効為替レート、の2つの説明変数で関数推計を行った。この結果に基づくと、海外設備投資比率は2014年度から低下に転じ、2013年度から2016年度にかけて3.5%pt程度低下すると予想される。企業に対するアンケート調査でも海外設備投資比率を低下させる計画が示されている。
◆最近の個社動向を整理すると、電気機械の国内生産移転は、主にこれまでコストの低い新興国で生産して日本に逆輸入していた製品の生産拠点を、消費地である国内に戻すという「地産地消型」である。乗用車に関しては、国内回帰によって米国向け輸出の増加が見込まれ、能力増強のための設備投資が一定程度出てくることが期待される。
◆海外の動向に目を向けると、製造業の付加価値と就業者に占める比率の低下というのは、日本特有の現象ではなく主要先進国に共通するものである。米国については、シェール革命による国内エネルギー価格の低下などを追い風に、製造業の国内回帰が増えた結果、2010年頃から製造業の両比率はいずれも横ばいの動きとなっている。
◆製造業の海外生産移転と実効為替レートに関しては、「名目値」と物価変動を調整した「実質値」のどちらを重視すべきかという議論があり、企業経営者は前者、研究者は後者を重要と考える傾向が強い。日中両国のように賃金水準にかなり大きな差がある場合には、インフレ格差が企業の海外生産移転の判断に及ぼす影響度は小さく、企業経営者はそれを調整した「実質値」より「名目値」を重視する公算が大きい。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
2025年11月雇用統計
失業者数が減少し、雇用環境の改善が進む
2025年12月26日
-
2025年11月鉱工業生産
自動車の減産などが押し下げ要因/当面の間は軟調な推移を見込む
2025年12月26日
-
トランプ関税の影響緩和に作用した企業対応
自動車は関税負担吸収で他企業への波及回避/機械は価格転嫁
2025年12月19日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
-
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
-
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日

