「生産性が低い」論は何が問題か

経済理論・現実データ・日常用語の食違いが招く混乱

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2014年07月16日

  • 市川 正樹

サマリー

◆「日本経済の成長には生産性の向上が課題」、「サービス産業の生産性が低い」、「あの人は生産性が高い」、などのように「生産性」はよく言及される。しかし、経済理論、現実のデータ、日常用語の間にはかなりの食違いがみられ、意識されないまま混乱が生じている可能性がある。


◆経済理論における生産性は、生産可能量・生産能力を労働投入量で割ったものである。しかし、実際に生産可能量を計測できる場合は限られ、通常は単に生産された量を労働投入量で割ったものが用いられている。日常用語では、生産性は労働時間の長短を意味している場合が多いとみられる。


◆通常使われている生産性は景気変動に大きく左右され、製造業では本来の生産性の1.5倍程度の影響がある。製造業のTFP(全要素生産性)は、本来の生産能力ベースの変化率は比較的変動が少ない一方、通常の総生産ベースの変化率は景気後退期に低下する。


◆非製造業を含む全産業(金融保険業除く)では、一人当たり付加価値額が大きいという意味で「生産性が高い」のは大きな設備を有する業種などである一方、「生産性が低い」のは非正規雇用や自営の多い業種である。


◆労働時間は、我が国は国際的にみても長い。短縮されたといっても非正規化の影響も大きいとみられる。


◆以上を踏まえた政策や実務へのインプリケーションとしては、①労働への分配を決める労使交渉では、景気変動等の影響を強く受ける労働生産性はもはや必ずしも適切ではなく、原資となる「付加価値等」の伸び率も参考になるかもしれない。②労働者個別の成果評価等では、各企業、更には各事業所の業務の特性に応じたそれぞれの「生産性」の評価を行っていく以外当面ない。③成長政策については、単に「生産性の向上が必要」だけではなく、具体的にどのようなことが求められるのかを明確にすることが必要である。④ワークライフ・バランスの検討においては、「労働時間の無駄」あるいは「生産性」の意味・定義を極力明確にした上で、労働時間を減らすかどうかを検討することが必要である。

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