サマリー
◆「日本経済の成長には生産性の向上が課題」、「サービス産業の生産性が低い」、「あの人は生産性が高い」、などのように「生産性」はよく言及される。しかし、経済理論、現実のデータ、日常用語の間にはかなりの食違いがみられ、意識されないまま混乱が生じている可能性がある。
◆経済理論における生産性は、生産可能量・生産能力を労働投入量で割ったものである。しかし、実際に生産可能量を計測できる場合は限られ、通常は単に生産された量を労働投入量で割ったものが用いられている。日常用語では、生産性は労働時間の長短を意味している場合が多いとみられる。
◆通常使われている生産性は景気変動に大きく左右され、製造業では本来の生産性の1.5倍程度の影響がある。製造業のTFP(全要素生産性)は、本来の生産能力ベースの変化率は比較的変動が少ない一方、通常の総生産ベースの変化率は景気後退期に低下する。
◆非製造業を含む全産業(金融保険業除く)では、一人当たり付加価値額が大きいという意味で「生産性が高い」のは大きな設備を有する業種などである一方、「生産性が低い」のは非正規雇用や自営の多い業種である。
◆労働時間は、我が国は国際的にみても長い。短縮されたといっても非正規化の影響も大きいとみられる。
◆以上を踏まえた政策や実務へのインプリケーションとしては、①労働への分配を決める労使交渉では、景気変動等の影響を強く受ける労働生産性はもはや必ずしも適切ではなく、原資となる「付加価値等」の伸び率も参考になるかもしれない。②労働者個別の成果評価等では、各企業、更には各事業所の業務の特性に応じたそれぞれの「生産性」の評価を行っていく以外当面ない。③成長政策については、単に「生産性の向上が必要」だけではなく、具体的にどのようなことが求められるのかを明確にすることが必要である。④ワークライフ・バランスの検討においては、「労働時間の無駄」あるいは「生産性」の意味・定義を極力明確にした上で、労働時間を減らすかどうかを検討することが必要である。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
2025年11月雇用統計
失業者数が減少し、雇用環境の改善が進む
2025年12月26日
-
2025年11月鉱工業生産
自動車の減産などが押し下げ要因/当面の間は軟調な推移を見込む
2025年12月26日
-
トランプ関税の影響緩和に作用した企業対応
自動車は関税負担吸収で他企業への波及回避/機械は価格転嫁
2025年12月19日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
-
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
-
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日

