アベノミクスの鍵を握る賃金の行方

所定内給与の増加に向けた構造改革が不可欠

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2013年06月24日

  • 齋藤 勉

サマリー

◆デフレからの脱却を目指して、「3本の矢」による経済政策を進める安倍政権は、同時に賃金の上昇を目指している。安倍首相は経済団体に対して賃上げを要求し、一部の企業がそれに呼応するように給与の引き上げを検討したこともあり、賃金動向が注目されている。


◆日本では1990年代後半以降賃金が減少傾向にある。賃金の内訳をみると、特別給与と所定内給与が減少している。特別給与については、国内企業の収益環境悪化によって減少しているとみられる。所定内給与については、製造業では底堅く推移しているものの、非製造業での減少が顕著である。非製造業における賃金減少は、一般労働者賃金の減少とパート労働者比率の上昇が主因である。


◆短期的には、海外経済の回復や円安を受けた収益環境の改善が特別給与、および所定外給与を増加させ、所得の回復に寄与するだろう。ただし、所定外給与や特別給与の増加には限界があることから、安定的な賃金上昇には、所定内給与の増加が不可欠である。


◆足下の所定内給与の減少は、雇用者数の増加が続く、医療・福祉を中心とするサービス業で、一般労働者賃金が減少し、パート労働者比率が上昇していることに起因する。今後は、医療・介護分野において労働生産性や付加価値の向上を目指した、構造改革の動きが一層重要になる。


◆アベノミクスが目指す賃金上昇は、短期的には特別給与、所定外給与の増加を通じて達成される可能性がある。ただし、一時的に目標が達成されたとしても、特別給与、所定外給与が増加し続けるためには、所定内給与の増加が必須である。安定的な所得環境の改善につながる所定内給与の増加のために、規制改革を中心とする構造改革が欠かせない。

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