地方交付税は、本来は地方の税収入とすべきである税を、国が代わって国税として徴収し、一定の合理的な基準によって再配分する、いわば「国が地方に代わって徴収する地方税」という性格をもっている。自治体間の財源の不均衡を調整し(財源調整機能)、どの地域に住む国民にも一定の行政サービスを提供しうるよう財源を保障する(財源保障機能)、という2つの目的がある(※1)。地方交付税は、普通交付税と特別交付税とに分かれるが、交付税総額のうち94%(平成25年度まで)(※2)を普通交付税が占めているため、地方交付税といえばほぼ普通交付税を指すものとみなしてよいだろう。


(1)普通交付税

普通交付税では、国税5税(所得税、酒税、法人税、消費税、たばこ税)の法定率分(※3)が充当された後、一般会計と、交付税及び譲与税配付金特別会計(※4)(以下、交付税特会という)、から一般財源(※5)の不足額(以下、財源不足額という)に対して補填がされる。したがって、一般財源が不足している自治体のみに交付されるものである。なお、財源不足額は、総務省が想定する標準的な行政サービスに必要なコスト(基準財政需要額(※6))と自治体の標準的な税収入額(基準財政収入額(※7))を理論的に算定した金額に基づくため、自治体の実際の財源不足額とは異なる。


普通交付税には、国税5税の法定率分に一般会計からの補填額を加えた金額である「地方交付税(入口ベース)」と、交付税特会からの補填額も加え実際に自治体に交付される金額である「地方交付税(出口ベース)」、の2種類の表現方法がある。特段断りがない場合には、政府の一般会計予算における歳入額のうち、どの程度が地方交付税へ振替えられるかについて財政規律の観点から評価することを目的として、入口ベースの意味で用いられていることが多い。毎年度の交付額は毎年8月31日までに決定され(地方交付税法第10条第3項)、4月、6月、9月、11月の年4回に分けて交付される(地方交付税法第16条第1項)。


(2)特別交付税について

特別交付税交付の条件は、基準財政需要額の算定方法によって捕そくされなかった特別の財政需要があること、基準財政収入額のうち著しく過大に算定された財政収入があること、普通交付税額の算定期日後に生じた災害(その復旧に要する費用が国の負担によるものを除く)等のため特別の財政需要があり、又は財政収入の減少があること、その他特別の事情があること、とされる(地方交付税法第15条)。


東日本大震災対応に係る財政需要は、平成23年度3次補正予算時には通常のケースに倣い、一般会計を財源補填の原資とする「特別交付税」として措置された。しかし、平成24年度以降は、東日本大震災復興特別会計が設置され、特別会計を財源補填の原資とする「震災復興特別交付税」として措置されることとなった。被災した自治体の東日本大震災の復旧・復興事業に係る財政負担を軽減し、被災していない自治体の負担に影響を及ぼすことがないよう、配慮されている。地方財政計画(※8)では、東日本大震災の復旧・復興に係る歳入出は「東日本大震災分」とし、「通常収支分」と分けて公表されている。


地方交付税については、地方の財源不足額に対し政府が補填することを保障することになるため、地方自治体が財源不足額を解消させようとするインセンティブが働かなくなる懸念(モラル・ハザードの存在)を指摘する声もある。しかし、自治体に地方交付税として交付される金額は、自治体の実際の財源不足額より少額であることも多く、臨時財政対策債(※9)を発行することにより財源を補っている現状があることから、その懸念は少ないといえるだろう。


なお、平成26年度以降の段階的な消費税率引き上げ(平成26年4月以降8%(※10)、平成27年10月以降10%(※11))に伴って、地方自治体の財源も拡大に向かい、地方財政にプラスに寄与するような印象を与えるが、必ずしもそうとはいえない。地方自治体において、地方消費税の税率引き上げにより地方税収増となる場合、消費税の増税分だけ財源不足額の縮減につながることから、新たな財政需要が生じない限りにおいては、通常、地方交付税の交付額は減額されることとなり、地方自治体の財源は増額しない。このほか、国が抱える巨額の財政赤字の解消を目的として、消費税(国分)から地方交付税への算入率の切り下げが検討される可能性もある。




(※1)総務省ウェブサイト「地方交付税制度の概要

(※2)地方交付税法第6条の2、地方交付税法等一部改正法(平成23年法律第5号)附則第2条第2項。

(※3)所得税及び酒税の収入額の32%、法人税の34%、消費税の収入額の29.5%、たばこ税の収入額の25%と定められている。(地方交付税法第6条)

(※4)交付税及び譲与税配付金特別会計とは、特定の事業の収支を経理する、事業特別会計とは異なり、地方交付税、地方特例交付金及び地方譲与税の配付に関する経理を明確にするために設けられている、整理区分特別会計である。(出所:総務省ウェブサイト「平成25年度交付税及び譲与税配付金特別会計に関する情報開示」)

(※5)一般財源とは、地方税、地方譲与税、地方特例交付金及び地方交付税の合計額である。なお、これらのほか、都道府県においては、市町村から都道府県が交付を受ける市町村たばこ税都道府県交付金、市町村においては、都道府県から市町村が交付を受ける利子割交付金、配当割交付金、株式等譲渡所得割交付金、地方消費税交付金、ゴルフ場利用税交付金、自動車取得税交付金及び軽油引取税交付金(政令指定都市のみ)を加算した額をいう。(出所:総務省「平成25年 地方財政白書」)

(※6)基準財政需要額は、普通交付税の算定基礎となるもので、各地方公共団体が、合理的かつ妥当な水準における行政を行い、又は施設を維持するための財政需要を算定するものであり、行政項目ごとに、次の算式により算出される。基準財政需要額=単位費用(測定単位1当たり費用)×測定単位(人口・面積等)×補正係数(寒冷補正等)(出所:総務省「平成25年 地方財政白書」)

(※7)基準財政収入額は、普通交付税の算定に用いるもので、各地方公共団体の財政力を合理的に測定するために、標準的な税収入額を一定の方法によって算定するものであり、次の算式により算出される。基準財政収入額=標準的な地方税収入×75/100+地方揮発油譲与税等(出所:総務省「平成25年 地方財政白書」)

(※8)地方財政計画は、内閣が翌年度の地方公共団体の歳入歳出総額の見込額について作成するものである。地方財政計画には、(1)地方交付税制度とのかかわりにおいての地方財源の保障を行う、(2)地方財政と国家財政・国民経済等との調整を行う、(3)個々の地方公共団体の行財政運営の指針となる、という役割がある。(出所:総務省「平成25年 地方財政白書」)

(※9)地方一般財源の不足に対処するため、投資的経費以外の経費にも充てられる地方財政法第5条の特例として発行される地方債。平成13〜25年度の間において、通常収支の財源不足額のうち、財源対策債等を除いた額を国と地方で折半し、国負担分は一般会計から交付税特別会計への繰入による加算(臨時財政対策加算)、地方負担分は臨時財政対策債により補填することとされている。(出所:総務省「平成25年 地方財政白書」)

(※10)現行、国の消費税率4%、地方消費税率1%に対して、国の消費税率は6.3%に引き上げ、地方消費税率は1.7%に引き上げ。(出所:財務省「税制抜本改革について」)

(※11)国の消費税率は7.8%に引き上げ、地方消費税率は2.2%に引き上げ。(出所:財務省「税制抜本改革について」)なお、10%への引き上げについては「景気条項」(税制抜本改革法附則第18条第3項)により再度判断するものとされている。


(2013年10月7日掲載)

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