水中に溶け込んでいる酸素(Dissolved Oxygen)を指し、水1ℓに含まれる酸素量(㎎/ℓ)で表示されることが多い(※1)。酸素の溶解度は水温や気圧などによって異なり、水温が低いほど、気圧が高いほど、水に溶け込める酸素の量(飽和溶存酸素量)は多くなる。1気圧の下では、水温15℃で約10㎎/ℓ、25℃で約8㎎/ℓが飽和溶存酸素量とされており、きれいな水ほど飽和量に近い酸素が溶け込んでいる。溶存酸素は、魚類等の水生生物の生存には不可欠であり、一般に溶存酸素量が3㎎/ℓを下回ると、魚類等の水生生物の生存が難しくなり、2㎎/ℓを下回ると嫌気性分解(※2)によって、硫化水素等の悪臭物質が発生するとされている。
溶存酸素量が増加する主な要因としては、水面から大気中の酸素が溶け込むことや植物の光合成による酸素の発生などが考えられる。水面が波立つことが多い河川の上流部では、酸素が水に溶け込みやすく、水草などが繁茂している水中でも、太陽光が射す日中に溶存酸素量が多くなる。一方、溶存酸素が失われる原因としては、生物の呼吸や水温の上昇などが考えられる。有機物(汚染物質)が多く流れ込む水域では、好気性微生物が有機物を分解する活動が活発になり、酸素が消費されて溶存酸素量が減少しやすい。環境省が定める「生活環境の保全に関する環境基準(※3)」では、河川、湖沼、及び海域について、それぞれ溶存酸素量にも基準値を置いている。
水の動きが少ない湖沼や内湾などの閉鎖性水域では、窒素や燐等の栄養塩類の流入(富栄養化)によってプランクトンが大量発生し、その死骸を分解するために酸素が著しく消費される現象もみられる。東京湾や伊勢・三河湾などでは、溶存酸素量が低下した水の塊(無酸素水塊・貧酸素水塊)が頻繁にみられており、溶存酸素量のモニタリングが実施されている(※4)。また、河川・湖沼の水温や海面の水温については上昇傾向も指摘されており(※5)、溶存酸素量を確保し、生態系を維持していくためには、水質改善と温暖化抑制の両面から対策を進めることが求められよう。
(※1) 海水では海水1㎏中に含まれる酸素の物質量(μmol/kg=マイクロモル/キログラム)や酸素濃度(ppm)で表示されることもある。
(※2) 有機物などを酸素で酸化して生育する微生物(好気性微生物)に対し、酸素のほとんどないところでも生きられる微生物は嫌気性微生物と呼ばれる。嫌気性微生物(細菌など)による有機物の分解では、硫化水素やメタンなどが発生することがある。
(※3)「水質汚濁に係る環境基準について」環境省
(※4)「貧酸素水塊速報」千葉県
「伊勢・三河湾貧酸素情報」愛知県
(※5)「『気候変動による水質等への影響解明調査(報告)』の公表について (お知らせ)」(平成25年3月28日:報道発表資料)環境省
「海面水温の長期変化傾向(日本近海)」気象庁
(2013年9月18日掲載)
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