レアアースとは「希土類元素」のことで、元素周期表の第3族に属する元素のうち、化学的性質が似ている21Sc(スカンジウム)、39Y(イットリウム)と57La(ランタン)から71Lu(ルテチウム)までの17種類の総称である(図表1)。埋蔵量が少なく産地が偏在していて、分離抽出が難しい。レアメタルという言葉もあるが、これは経済産業省が日本の製造業の維持・強化のために安定供給確保の重要性の高いレアアースを含む31種類の元素を定義したものである(この定義ではレアアース17種類を総括して1種類と数える)。
レアアースは、ハイブリッド車や電気自動車のモーター用のネオジム磁石、LEDの蛍光体、光磁気ディスクの記録層、燃料電池の電極材、光学ガラスなど、ハイテク製品に使われている。
レアアースの埋蔵量でみると中国は世界の3割程度だが、生産量は世界の約9割を占めている(図表2)。主な理由は、中国が非常に安価に提供する戦略をとったため、他国では採算がとれなくなり生産を止めてしまったからである。さらに、中国内での利用を優先するなど、生産や輸出をコントロールするようにもなった。また2010年には、尖閣諸島沖での漁船衝突事件などをきっかけに、日本へのレアアース輸出が停滞した。こうしたことなどから日本は、米国・EUと共に、WTO協定に基づく協議を要請(2012年3月13日)したが、中国との協議で満足できる結果を得られなかったため、2012年6月27日にWTO紛争処理委員会(パネル)の審理を要請した。2014年3月26日に日本の主張を全面的に認める判断が示されたパネル報告書が公表され、これを支持した上級委員会報告書が、2014年8月29日、WTOの紛争解決機関(DSB:Dispute Settlement Body)の会合において採択された(※1)。
ただし日本では、この問題が起きる前からレアアース対策として、「鉱山開発・権益確保/供給確保」、「代替材料・使用量低減技術開発」、「リサイクルの推進」などを進めている(※2)。供給確保策の一つとして、国内での資源探索が行われている。2011年には太平洋の海底にレアアースを大量に含む泥が存在することが発表され、その後、日本のEEZ(排他的経済水域)内にある南鳥島周辺海域にも存在が確認された(※3)。深海底からの引き揚げなどの課題はあるものの、今後、国産資源となる期待が大きい。代替材料の開発や使用量低減についても、レアアースを使わないモーター用磁石や、レアアースの使用量を減らすガラス研磨技術などの開発において進捗がみられ(※4)、リサイクルについては、産学官連携でリサイクルフローの確立を目指している(※5)。
政府が「中国外の鉱山開発支援」、「リサイクルや省資源・代替材料に関する技術開発や設備導入支援」、「中国政府の輸出規制に対するWTO 提訴等」の対応を行うと共に、国内のレアアースユーザーも使用量削減等の取組を進めて需要が減った(図表3)ことによって、一時的な供給途絶リスクは緩和されているとみられている(※6)。
(※1)経済産業省 ニュースリリース 平成26年8月8日 「中国のレアアース等原材料3品目に関する輸出規制がWTO協定違反と確定しました」
WTO 2014 NEWS ITEMS 29 August 2014 “DSB adopts Appellate Body reports on China’s rare earths measures”
(※2)経済産業省「レアアース対策」
(※3)加藤泰浩著『太平洋のレアアース泥が日本を救う』(PHP研究所、2012年7月製作)
(※4)独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 「レアアース(技術/成果情報)」
(※5)独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC) 「レアアースの通説 正と誤」
(※6)経済産業省 総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 鉱業小委員会 「中間報告書」(平成26年8月18日)
- (2013年2月27日掲載)
- (2013年7月18日更新)
- (2014年9月4日更新)
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