水利権とは、特定の目的を達成するために必要な限度において、流水を排他的・継続的に使用する権利と考えられているが、水利権について規定している河川法では、水利権という用語は使用されていない。河川法(※1)では、「河川の流水は、私権の目的となることができない」(第2条第2項)とした上で、「河川の流水を占用しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない」(第23条)と定めている。許可を要するのは取水だけでなく、河川水を貯留することも含まれる。水利使用を許可する際の判断基準については、以下の四点が挙げられている(※2)。
水は古来より生活や産業にとって極めて重要な位置付けにあり、水の使用について慣行が定着してきた地域もある。そのため、旧河川法が施行された時点(明治29年)において、既に河川から取水していた場合などについては、河川管理者の許可を受けたものとみなされ、いわゆる慣行水利権が認められている。新たに水利使用許可申請があった場合には、関係河川使用者(既得水利権者及び漁業権者)にその旨が通知され、通知を受けた者はその者が受ける損失を明らかにして、意見を申し出ることができることになっている(河川法第38条・第39条)。水利使用はその目的により、特定水利使用、準特定水利使用、及びその他の水利使用に分類されており、水利権の許可権者は、一級河川、二級河川などの区分と水利使用の分類によって異なる。
新たな水利使用の許可にあたっては、10年に1回程度の渇水年における取水予定地点の流量(基準渇水流量)がベースとなり、申請者の予定取水量が、基準渇水流量から既得権者の水利権量と河川維持流量(※3)を差し引いた水量の範囲内にあることが原則となる(※4)。季節による流量の増減を調節(図表2のAやBの部分をCの時期などに利用)できれば、人為的に基準渇水流量を増大させることができるため、ダム等による水資源開発が行われることも多い。しかし、ダムが流れを堰き止めることの弊害として、土砂の堆積や水質の悪化、水生生物の移動阻害などが挙げられており、ダムの下流域でも、河床の低下や海岸浸食などが見られるという。
既得水利権を所与とすれば、新たな水利使用にあたって、ダム等による水資源開発が必要になるケースも多くなると考えられるが、農業用水や工業用水の使用量には減少傾向もみられており、水利使用者の状況は変化している。また、生物多様性の保全や景観の改善、親水などの観点からは、河川の重要性は高まっているといえよう。他方、河川水が公共用物とされているのに対し、地下水は土地の所有権に付随するとみられることが多く、地表と地下で水に対する考え方が統一されていない側面もある。山や海などを含めた自然の大きな循環を視野に入れ、時代の変化に合わせて水資源利用を考えるべきであろう。
(※1)「河川法」法令データ提供システム
(※2)「水利使用許可の判断基準」国土交通省
(※3)河川維持流量:塩害防止、各種排水の希釈浄化、河道の維持、河口埋塞防止、水生動植物の生存繁殖等、河川に関する公利の確保、公害の除去若しくは軽減のため流水の果す機能を確保するための流量
(※4)基準渇水流量を超える場合に限り取水できる水利権として、豊水水利権がある。
(2013年2月27日掲載)
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