地盤沈下には、地殻変動や堆積物の収縮などによる自然沈下と鉱物の掘削や地下水の過剰揚水等による人工的な沈下がある。大正時代から昭和の初めごろにかけて、各地で深井戸の掘削が始まり、東京周辺では大量の地下水をくみ上げることによる地盤沈下が問題となり始めた。関東大震災や太平洋戦争の時期には、経済活動の停滞などにより一時的に沈下が緩やかになったものの、戦後復興に伴って地下水の使用量は急速に増加し、地盤沈下は全国に広がっていった。関東平野の一部では4mを超える地盤沈下がみられた地域があり、大阪平野でも場所によっては2mを超える地盤沈下がみられたという(※1)。
地盤が沈下すると、井戸やマンホールの抜け上がり、上下水道・ガス等の地下設備の破損、建築物の損壊、高潮被害等が発生する恐れがあり、地盤沈下を止めるためには、地下水のくみ上げを抑制することが有効な対策となる。工業用水のくみ上げに対しては1956年に「工業用水法」、1962年には「建築物用地下水の採取の規制に関する法律」が制定されるとともに、多くの地方公共団体(26都道府県・287市区町村:平成24年3月現在)でも条例等を定めて、地盤沈下の抑制を図っている。環境基本法は第2条(定義)の中で、地盤沈下を典型的な公害の一つに挙げている。
法律や条例等による地下水利用の抑制により、人工的な地盤沈下は落ち着いたものの、現在でも地盤沈下がみられる地域はあるという。2011年度に年間2cm以上沈下した地域は全国で14地域(5,919.5 ㎢)あるとされているが、この結果には東日本大震災による影響(自然沈下)が大きいものとみられている。しかし、震災前の10年度の測量結果でも、6地域(5.5㎢)で地盤沈下がみられたとされている。近年、地盤沈下が起きている地域で、地下水が揚水されている主な理由としては、水溶性天然ガス溶存地下水の揚水、冬期の消融雪用としての利用、都市用水、灌漑用水などが挙げられている。
近年の水利用量全体に占める地下水の割合は、以下の通りとなる。地盤沈下は緩やかに進行するため気づきにくい一方、一度沈下した地盤は地下水位が回復しても、元に戻すことは難しいことから、未然に予防することが重要といえよう。
(※1)当本文中のデータは「平成23年度 全国の地盤沈下地域の概況」(平成24年12月17日)環境省 による。
(2013年1月7日掲載)
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