「ワーカーズキャピタル責任投資ガイドライン」は、日本労働組合総連合会(連合)が策定したワーカーズキャピタルの運用におけるガイドラインで、2010年12月16日付で「ワーカーズキャピタルに関する連合の考え方」と合わせて公表された。ワーカーズキャピタルとは、年金基金など、労働者が拠出した、または労働者のために拠出された基金を指し、その運用に際して、財務的要素に加え、ESG(環境・社会・コーポレートガバナンス)等の非財務的要素を考慮することや、株主あるいは資産所有者としての権限を行使することで公正で持続可能な社会形成に貢献することを目的としている。
ガイドラインでは、「『ワーカーズキャピタル責任投資』の基本理念」として6つの理念を示すとともに、「『ワーカーズキャピタル責任投資』のための行動指針」として労働者(労働組合)の行動に関する7つの指針が示されている。また、「『責任投資』を実行するための手順」として、投資判断に組み込む非財務的要素の基準や責任投資の手法を示すことで、ワーカーズキャピタルによる責任投資を行う際の具体的な手順が示されている。
年金基金などによるSRI(社会的責任投資)では、「受託者責任」との関係が大きな問題となるが、「ワーカーズキャピタルに関する連合の考え方」では「わが国においても法律専門家が『SRIは必ずしも受託者の義務には反しない』という意見書を出している」として、SRIと受託者責任の関係について記述している。また、注釈で「他の運用方法と経済的に競合しうるSRIであれば、基金の理事などがSRIを指示することも、運用機関がSRIを行うことも、受託者責任には抵触しない」という意見書を紹介している。「経済的に競合しうる」という条件付きではあるが、年金基金によるSRIが受託者の義務に反しないことを示しているのである。
また、ガイドラインの「はじめに」では、「世界最大の年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)など公的年金制度の積立金の運用機関に対しても、責任投資を求めていく」と述べるなど、私的年金だけでなく、公的年金による責任投資へも踏み込んだ内容となっている。
(2012年9月6日掲載)
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日